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バートランド・ラッセル「余暇を有意義に過ごす」- Fill leisure intelligently

* 出典:(語学テキスト) 佐山栄太郎(編)『訳注ラッセル選』(南雲堂,1960年7月刊)pp.50-51
目次

Fill leisure intelligently

余暇を有意義に過ごす

Most people, when they are left free to*1 fill their own time according to their own choice, are at a loss to*2 think of anything sufficiently pleasant to be worth doing. And whatever they decide on, they are troubled*3 by the feeling that something else would have been pleasanter. To be able to fill leisure intelligently is the last product of civilization, and at present very few people have reached this level. Moreover, the exercise of choice*4 is in itself tiresome. Except to people with unusual initiative*5 it is positively*6 agreeable to be told what to do at each hour of the day, provided the orders are not too unpleasant. Most of the idle rich*7 suffer*8 unspeakable boredom as the price of*9 their freedom from drudgery.*10 At times they may find relief*11 by hunting big game*12 in Africa, or by flying round the world, but the number of such sensations is limited, especially after youth is past.*13 Accordingly, the more intelligent rich men work nearly as hard as if they were poor.
(From: The Conquest of Happiness, 1930)

【ヒント】
 この文は前題に続くもので,何でも勝手なことをしていいと言われると,かえって困ることが多い。せっかく何か決定してやり始めても,もっと愉快なことがあったかも知れないと迷うのである。それで特殊な人でない限り,実は仕事を人から与えられた方がのんきでよいと思うのである。
【語句】
*1 are left free to 「自由に~するように放任される」こういう表現をよく覚える。
*2 are at a loss to「~するのにとまどう」「どうして~していいか分らない」 to の代りに for + 名詞の連語もある。
*3 are troubled「悩まされる」
*4 exercise of choice「選択の力を働かすこと」
*5 with unusua1 initiative[iniietiv]「特別に率先して事をやりたがる」この with は who have として見ればよい。
*6 positively 「はっきりと」
*7 the idle rich は idle rich people.
*8 suffer ここは他動詞で experience, undergo であるが主として不愉快なことを経験する。自動詞なら suffer from が普通。
*9) as the price of「何々の代償として」
*10 drudgery=hard, unpleasant and uninteresing work「苦しい単調な仕事」「苦役」
*11 relief「たいくつしのぎ」「気晴らし」
*12 game「獲物」
*13 after yonth is past は when thcy are no longer young と書き直せる。


【構文】
whatever they decide on は譲歩の副詞節。something else would have been pleasanter は,「他の何かを選んだならぱ」の条件がかくされているので would have been と Subjunctive になっている。To be able ..._の不定詞は名詞役で文の主語。Except to people の toをうっかり見落すと agreeable が誰に agreeabie なのか迷い子になる。it is agreeable の it はもちろん次の to be told を代表する。
【邦訳】
 大抵の人は自分の選択によって自分の時間を自由に費やせと言われると,やって見るだけの価値があるほど愉快な仕事を思いつくことが出来なくて当惑する。そしてどんな仕事に決めて見ても、何か他のことの方がもっと愉快だったろうという感じで悩まされる。閑暇(余暇)を賢明にすごすことが出来るということは文明の最後の産物である。そして現在,このレベルに到達している人は極めて少数である。その上に、選択に心を使うことはそれ自体厄介なことである。特別に率先的な人でないかぎり,一日のうち一時間ごとに何をしろと命じられることは、その命令が余り不愉快なものでさえなければ、たしかに気持のよいものである。何もしない金持ち連中の大多数は、苦しい単調な仕事から解放されている代償として、言うに言われない退屈に悩まされているのである。時には彼等はアフリカで大狩猟をしたり、あるいは世界を飛行機で回ったりして気晴らしをする。けれどもこのような興奮する事件回数は限りがある。殊に若さがすぎてしまっては。従って、もっと賢い金持ちの男たちはまるで貧乏人のようにせっせと仕事をするのである。

(右イラスト:Russell's The Good Citizen's Alphabet, 1953 より)