バートランド・ラッセル「最悪な事態が起こったとしても・・」

* (語学テキスト)佐山栄太郎(編)『訳注ラッセル選』から採録
* 出典:佐山栄太郎(編)『訳注ラッセル選』(南雲堂,1960年7月刊)pp.108-1093.

目次
Look the possible misfortune in the face 最悪な事態が起こったとしても(起こりそうな不幸を直視して・・・)
When some misfortune threatens,*1 consider seriously and deliberately*2 what is the very worst*3 that could possibly happen. Having looked this possible misfortune in the face,*4 give yourself sound reasons*5 for thinking that after all*6 it would be no such very terrible disaster. Such reasons always exist, since*7 at the worst*8 nothing that happens to oneself has any cosmic*9 importance. When you have looked for some time steadily at the worst possibility and have said to yourself with real conviction,*10 'Well, after all, that would not matter*11 so very much,' you will find that your worry diminishes to a quite extraordinary*12 extent. It may be necessary to repeat the process*13 a few times, but in the end, if you have shirked*14 nothing in facing the worst possible issue,*15 you will find that your worry disappears altogether, and is replaced*16 by a kind of exhilaration.*17
(From: The Conquest of Happiness, 1930)

【ヒント】
 起りそうな不幸に対しては,その最悪の場合を真正面から熱視してみて,結局個人にふりかかる不幸などというものは,いくら悪くても,別に天下がひっくり返るようなものではない,とこう悟れば,心の重荷は軽くなってしまう。大抵のな悪いことが起ったって天下の大勢には影響はないんだという確信を深めれば,心気一転,朗らかになるという主旨である。
【語句】
*1 threaten=seem likely to come「~のおそれがある」。もちろん「威嚇する」意味もある。用例:The clouds threaten rain. (雲の様子では雨になりそうだ。) They threatend revenge. (かたきをとるぞと言った。)
*2 deliberately「慎重に」
*3 the very worst の very も、could possibly happen の possibly も強意の用法。
*4 look in the face「まともに見る」。にげかくれするような卑怯なまねをしない。
*5 sound reason「確かな理由」[合理的理由」 sound の代りに cogent(もっともと思われる)などもよく使われる。
*6 after all [結局」
*7 since 理由を表わす接続詞。
*8 at the worst「最悪の場合でも」
*9 cosmic[kozmik]importance「宇宙的重大さ」「天地が転倒するほどの重大さ」
*10 conviction[確信」この動詞は convince の方であって, convict(有罪を宜告する)ではない。
*11 matter 動詞で be important の意。
*12 extraordinary[ikstr:dinri]「異常な」
*13 proess「過程」「やり方」
*14 shirk=avoid.
*15 issue「結果」「結末」
*16 replace「おき代える」
*17 exhilaration[igzilrei∫n]「愉快な気分」「晴れやかな気持」

【構文】
Having looked…の分詞構文は,Clause にすれば when you have looked …となる。give yourself …は命令文で,前の consider のところと同様。ここの yourself は目的格と見る。it would be no ...の would は「いよいよ起っても」のかくされた条件に応じるもの。since at the worst nothing ...では nothing が主語で,述部は has であることに注意。is rep1aced の主語は worry である。

【邦訳】
 何か不幸が起りそうである時には、およそ起り得る最悪のことは何であるかを、真剣に慎重に考えて見よ。この起り得べき不幸をまともに見つめた後で,結局,それはそれほど恐ろしい不幸ではないのだと考えるための根拠のある理由を見出せ。このような理由は常にあるものだ。なぜならば,最悪の場合でも個人の身に起ることで天地がひっくり返るほど重大なものはないからである。最悪の事態をしばらくの間じっと見つめ,本当の確信を以て,「いや,結局は,そんなことはそれほど大したことではあるまい」と自分に言いきかせたならば,諸君の悩みが驚くばかり軽減するのを知るだろう。この過程を幾度か繰り返して見ることは必要であるかも知れない,けれども最後には,もし諸君が起り得る最悪の事態に、何のひるむこともなく直面して行くならば・諸君の不安は全く消えうせ、一種の愉快な気分がとって代るのに気がつくであろう。 * 右イラスト:「ラッセルを読む会」案内状より)