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ラッセル関係書籍の検索 ラッセルと20世紀の名文に学ぶ-英文味読の真相39 [佐藤ヒロシ]

バートランド・ラッセル「人類が自由かつ平和に暮らすためには・・・」

* (語学テキスト)佐山栄太郎(編)『訳注ラッセル選』から採録
* 出典:佐山栄太郎(編)『訳注ラッセル選』(南雲堂,1960年7月刊)pp.108-1093.

目次

Live in freedom and joy, at peace with myself and ...

「人類が自由かつ平和に暮らすためには・・・」
Man, in the long ages since he descended from the trees, has passed arduously and perilously*1 through a vast dusty desert, surrounded by the whitening bones*2 of those who have perished by the way, maddened by hunger and thirst, by fear of wild beasts, by dread of enemies, not only living enemies, but spectres*3 of dead rivals projected on*4 to the dangerous world by the intensity of his own fears.
At last he has emerged from the desert into a smiling land, but in the long night he has forgotten how to smile. We cannot believe in the brightness of the morning. We think it trivial and deceptive; we cling to old myths that allow us to go on living with fear and hate - above all, hate of ourselves, miserable sinners.
This is folly. Man now needs for his salvation only one thing: to open his heart to joy, and leave fear to gibber*5 through the glimmering darkness of a forgotten past. He must lift up his eyes and say:
' No, I am not a miserable sinner; I am a being who, by a long and arduous road, have discovered how to make intelligence master*6 natural obstacles, how to live in freedom and joy, at peace with myself and therefore with all mankind.'
This will happen if men will choose joy rather than sorrow. If not, eternal death will bury man in deserved oblivion.*7
【ヒント】
筆者は人間の救われる最後の途を説いている。それは要するに楽観主義に徹することである。人間は過去の長い歴史を,恐怖と憎悪,自己の罪悪感に,悩まされて生きて来た。今やこれを一擲すべき時である。


【語句】
*1 arduous1y and perilously 「刻苦し危険を冒して」
*2 whitening bones {風雨にさらされて)「白くなる骨」
*3 spectre[spekt] 「幽霊」
*4 projected on「投影された」 これはspectres を修飾する。
*5 leave fear to gibber 「恐怖にはわけの分らぬことをぶつぶつ喋らせるにまかせる」 gibber は「歯をカチカチ鳴らしてしゃべる」こと。
*6 make intelliigence master この master は動詞。
*7 deserved oblivion 「ふさわしい忘却」



【構文】
最初のセンテンスはかなり長いが、修飾句や節をきり離して見ると簡単なものになる。surrounded by ... the way は desert を修飾し,maddened は初めの Man を修飾し,これに by hunger .. by fear ... by dread ...と続いているわけ。

【邦訳】

 人間(人類)は樹からおりて(樹上生活の類人猿から地上生活の人間になって)以来,長い時代をかけて,途中で死んだ人々の白骨にかこまれ,(刻苦し危険を冒して)広大な砂漠を通って来た。あるいは飢餓と渇きに,あるいは野獣の恐怖に,あるいはまた敵を怖れ,生きている敵のみならず,自分の恐怖の激しさのために,危険な世界に投影された死んだライバルの亡霊をさえ怖れて,狂気のような思いをして,沙漠を通って来たのである。
 ついに人間はこの沙漠からぬけ出し,ほほ笑む土地に出た,けれどもあの長い夜の間にほほ笑むことを忘れてしまった。われわれは朝の明るさを信用することが出来ない。それはとるに足らぬ,当てにならぬものだと思っている。われわれは,恐怖と憎しみ一特に,みじめな罪人としての自分自身に対する憎しみ,これを抱いて生きるようにさせるあの古い作り話にかじりついている。
 これは愚かなことだ。人間はその救いのために必要なことはただ一つだけだ,すなわち,歓びにわが心を開き,恐怖などは忘却の過去の薄くらがりの中に勝手にぶるぶる震えてしゃべらせておくことである。人間は目をあげてこう言うのだ,
「私はもうみじめな罪人ではない。長い苦難の途を通って,知能が自然の障害を征服する方法を発見し,自由と歓びの中に,自分自身と仲よく,またすべての人類と仲よく,生きる方法を発見した,そういう存在となったのだ」
 人間が悲しみでなく歓びを選ぶならば,こういうことが起るだろう。もし,歓びを選ばなければ,永遠の死が彼(人間)を,その当然の忘却の中に埋めてしまうだろう.