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バートランド・ラッセル「退屈を恐れる心」

* (語学テキスト)佐山栄太郎(編)『訳注ラッセル選』から採録
* 出典:佐山栄太郎(編)『訳注ラッセル選』(南雲堂,1960年7月刊)pp.108-1093.

目次
Fear of boredom 退屈を恐れる心
The special kind of boredom from which modern urban populations*1 suffer is intimately*2 bound up with their separation from*3 the life of Earth.*4 It makes life hot and dusty and thirsty, like a pilgrimage*5 in the desert.*6 Among those who are rich enough to choose their way of life,*7 the particular brand*8 of unendurable boredom from which they suffer is due, paradoxical*9 as this may seem, to their fear of boredom. In flying from the fructifying kind of boredom,*10 they fall a prey to*11 the other far worse kind.*12 A happy life must be to a great extent a quiet life, for it is only in an atmosphere*13 of quiet that true joy can live.
(From: The Conquest of Happiness, 1930)

【ヒント】
 本文の初めの言葉から,これは特殊な退屈の話をしていることを知る。特殊な退屈とは土の生活と離れた都会人のそれらしく,また自由な生活の出来る境遇にある金持の悩む退屈のことであろうと推測出来る。

【語句】
(1)urban[:bn] populations「都会に住む人々」ここの populations という複数形はいわゆる「人口」ではなくて, people という具体的な気持を表わしているもの。urban の urb は city の意味で, suburb は「郊外」であることはご承知の通り。urbane[:bein]となると「都会風な」である。
(2)intimately=closely「親密に」
(3)suffer from「~で悩む」「~に罹る」is bound with「~と結びついている」
(4)the life of Earth「大地の生活」It make life......の It は separation from the life of Earth を受けるのが自然であろう。
【語句】(続き)
(5)pilgrimage「巡礼の旅」「長い旅」
(6)desert[dezt]「荒野」,「沙漠」動詞の desert は「捨てる」で発音は[diz*:t],「功績」の意味の名詞は[diz:t]であるから注意を要する。
(7)choose their way of life「自分の生活の仕方を自由に選ぶ」
(8)brand = kind. is due to「~に由来する」叙述部に使われた due to は caused by と説明出来る。
(9)paradoxical「逆説的な」Paradox というのは「ちょっと見ると不合理のようだが実は重要な真理を含む言葉」である。
(10)fructifying kind of boredom「成果のあがるような種類の退屈」 fructify はやさしい言葉で言えば fruitful である。fruct はもともと fruit の意味のラテン語。退屈の時にかえって立派なことが出来るかも知れないので, fructifying kind of boredom といったもの。
(11)fall a prey to「~の餌食となる」「~に捕えられる」
用例: The deer fell a prey to a lion. (その鹿はライオンの餌食になった。) He became a prey to melancholy. (彼は憂うつ症にかかった。)
(12)the other far worse kind とは「退屈恐怖症」のこと。
{13)atmosphere[tmsfi]「空気」「環境」


【構文】
from which の which の先行詞は boredom で,この from は suffer に結びつくもの。paradoxical as this may seem は though this may seem paradoxical と書き直せる。副詞節。In flying from ....は When they fly from…という Clause にして考えて見ればよい。jump (or leap) from the frying-pan into the fire(フライ鍋から飛び出して火中に入る)という言葉がある。一難を免れようとして一層の大難に陥るという意味。最後の文の it is only in ...._tbat true joy はit…that の強意文型である。

【邦訳】
 現代の都会の住民が悩んでいる一種特殊な退屈は大地の生活と分離していることに深い関係をもっている。大地の生活との分離は生活を沙漠のなかの巡礼の旅のように,熱っぽく,挨っぽく,喉の渇きを覚えさせるものである。自分の生活のやり方を自由に選択出来るほど富裕な人々の間では,彼等が悩んでいる堪えがたい一種特殊な退屈は,逆説のように聞えるかも知れないが,実は退屈を怖れる心から来ているのだ。こういう人たちは,みのりの多いような退屈から逃げて,かえって遙かに悪い種類の退屈に捕われてしまう。幸福な生活とは大部分は静かな生活でなければならない。なぜなら真の歓喜が生存し得るのは静けさの雰囲気の中のみであるからだ。 (右イラスト:「ラッセルを読む会」案内状より)