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バートランド・ラッセル「退屈な生活(の価値)」

* 出典:(語学テキスト) 佐山栄太郎(編)『訳注ラッセル選(南雲堂,1960年7月刊)pp.14-15.

目次

monotonous life


退屈な生活(の価値)


The capacity to endure a more or less monotonous life*1 is one which should be acquired*2 in childhood. Modern parents are greatly to blame*3 in this respect; they provide*4 their children with far too many passive amusements,*5 such as shows*6 and good things to eat,*7 and they do not realize*8 the importance to a child of having one day like another,*9 except, of course, for somewhat rare occasions.*10 The pleasures of childhood should in the main*11 be such as the child extracts himself*12 from his environment*13 by means of*14 some effort, and inventiveness.*15 Pleasures which are exciting and at the same time involve*16 no physical exertion, such, for example, as the theatre,*17 should occur very rarely.
(From: The Conquest of Happiness, 1930)

【ヒント】このテキストでは monotonous life ということが問題になっている。子供の教育に単調な生活がある程度必要であって,子供の気を紛らす娯楽を,しかも受身の娯楽を,余り多く与えることは,子供の将来のためにならないという主旨であることを,突き止める。例えば芝居などは興奮をよび起すことはあるが,肉体的には何の運動も伴わない。こういうのは子供にはあまりよくない。こういうことを推定する。

【語句】
1)monotonous[mntns]life「単調な生活」mono は alone,single の意味。それに tone (調子)の形容詞形がついている。
(2)be acquired「獲得される」acquire は get by one's own efforts or behaviour であるから,何もしないでいて,おじさんの遺産がころげこんで来たのでは acquire したとはならない。acquired tasteと言えば,「生れつきの好み」ではなく,「だんだんに慣れて得た好み」のことである。
【語句】(続き)
(3)are to blame「責めを負うべきだ」「わるいのだ」理窟から言えば to blame は to be blamed となるのであるが,慣用法でこう言う。用例: Who is to blame for starting the fire?(出火の責任者は誰だ。)
(4)Provide some one with something「誰々に何々を与える,当てがってやる」この provide はまた次のような用法もある,He must provide foods for his family.(家族を食べさせなくてはならない。) I am provided with everything I need.(私は必要なものはみんなもっている。)
(5)passive amusements「受動的娯楽」こちらから積極的に何の努力もしないで,相手が楽しませてくれるのを待っている娯楽。
6)show もう日本語になっている「ショー」で,芝居のような見せ物。
(7)good things to eat「うまい食べ物」このままの連語で使うことを覚える。
(8)realize=understand, be fully conscious of これには make realize (実現する)意味もある。
(9)having one day like another「同じような日を送り迎えること」結局, monotonous life の別な表現になる。
(10)except for somewhat rare occasions「多少珍しい場合は別にして」これは祝祭日とか家族の誕生日とかを言っている。except と excep for の 用法については次の例を見よ。
Everybody went except him.(彼のほかは全部行った。) Your composition is good except for a few spelling mistakes.(君の作文は少数の綴りの誤りがあるが,それを別にすれば立派な出来だ)。
(11)in the main=for the most part, on the wbole.「大部分は,主として」
(12)the child extracts himself 「子供がみずから引き出す」
(13)environment[invirnmnt]「環境」
(14)by means of「~によって」
(15)inventiveness「創意に富むこと」「工夫の才」
(16)involve「(必然の結果として)伴う」
(17)the theatre[θit]『芝居」「演劇」ここでは劇場の意味ではない。

【構文】
one which should be の one は capacity を代表する。the importance to a child of having...では importance of と続く。extracts は他動詞,目的語は前のasである。

【邦訳】

 多かれ少かれ単調な生活に堪え得る能力は幼年時代に身につけるべき能力である。この点で今日の親たちは大いに非難されねばならない。彼等は子供たちに,例えばショーとかうまい食べ物とかいったような受動的な楽しみを与えすぎており,実は,時折の多少珍しい機会はもちろん別として,同じような日々を送り迎えるということが子供にとって非常に重大であることを十分に理解していないのである。幼年時代の楽しみというものは,大体において,多少の努力と創意工夫によって,子供みずから,その環境から引き出すものであるべきだ。子供を興奮させるが,同時に身体の努力を伴わないような娯楽,例えば観劇のようなものは,きわめてたまにしか与えるべきではない。(右イラスト:「ラッセルを読む会」案内状より)