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(語学テキスト)佐山栄太郎(編)『訳注ラッセル選』(南雲堂,1960年7月刊)pp.136-137.

目次

Self-respect and a sense of superiority

自尊心と優越感との相違
Among the things which are in danger of*1 being unnecessarily sacrificed*2 to democratic equality, perhaps the most important is self-respect*3. By self-respect I mean the good half of pride - what is called 'proper pride.' The bad half is a sense of superiority.*4 Self-respect will keep a man from being abject*5 when he is in the power of enemies, and will enable him to feel that he may be in the right*6 when the world is against him. If a man has not this quality, he will feel that majority opinion*7, or governmental opinion, is to be treated as infallible*8, and such a way of feeling, if it is general, makes both moral and intellectual progress impossible. Self-respect has been hitherto, of necessity*9, a virtue of the minority. Wherever there is inequality of power, it is not likely to be found among those who are subject to*10 the rule of others. One of the most revolting*11 features of tyrannies is the way in which they lead the victims of injustice to offer adulation*12 to those who ill-treat them. Roman gladiators*13 saluted the emperors who were about to cause half of them to be slaughtered for amusement. Dostoevski and Bakunin*14, when in prison, pretended to think well of the Czar*15 Nicholas*15.

【ヒント】
 民主主義の平等のために犠牲に供せられるものがいくつかあるが,self-respect(自尊心)もその一つである。self-respectはどう定義されるか。人がこのself-respect をもっている場合は,どういう態度がとれ,また,それをもっていない時には,どんな不都合があるか。self-respect は従来どういう派の人々に見出されたか。虐政の最もいとわしい特色は何であるか。

【語句】

*1 be in danger of 「〜の危険にある」
*2 be sacrificed to 「〜に犠牲に供される」
*3 self-respect「自尊心」
*4 sense of superiority「優越感」
*5 abject「卑劣な」「卑屈な」既出。
*6 be in the right「道理がある」「正しい」これは甲と乙とどちらが正しいかと言うような時に,「こちらが正しい」という表現である。「〜の方に道理がある」とか「〜の方が正しい」と訳してよい。反対は be in the wrong.
*7 majority opinion「多数者の意見」反対の「少数者意見」は minority opinion
*8 infallible「誤りがない」既出。
*9 of necessity「必然的に」
*10 are subject to 「〜に服従する」
*11 revolting = disgusting, repulsive,「不快な」「嫌悪すべき」 この語は又「反逆する」の意味もあるから注意を要する。
*12 adulation「へつらい」
*13 Roman gladiators「古代ローマの剣闘士」
*14 Bakunin(1814-1876) ロシアの革命的無政府主義者。
*15 Czar[za: ]
*16 Nicholas(1796-1855) 1825-1855に皇帝。

【構文】
he will feel that majority opinion ... の that は接続詞で名詞節を導くもの。
【邦訳】
 民主主義的平等のために,不必要に犠牲に供される怖れのある事柄のなかで,恐らく最も重大なものは自尊心である。自尊心というのは誇りのよい半面のことである。いわゆる「正当な誇り」である。悪い半面は優越感である。自尊心があれば敵の掌中にあっても卑屈にならない,そして世間が自分に反対しても自分の方が正しいのだと感じることが出来るであろう。人にこの性質がないと,多数者の意見・あるいは・政府の意見は絶対誤りなきものとして取り扱うべきだと思うであろう。そして,こういう考え方がもし一般的になると,道徳的進歩も知的進歩も共に不可能になるのである。自尊心はこれまでは必然的に少数派の美徳であった。 権力の不平等のあるところはどこでも,自尊心は他人の支配に屈従している人々の間には見当りそうにない。暴虐の最も嫌悪すべき特色の一つは、不正義の犠牲者をして,自分たちを虐待した人々にお追従を言わせるようにするそのやり方である。古代ローマの剣闘士たちは自分たちの半数をなぐさみに殺そうとしている皇帝に敬礼をしたのであった。ドストエフスキーとバクーニンは獄にいる時はニコラス皇帝に好意をもっているふりをしていた。