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ラッセル関係書籍の検索 ラッセルと20世紀の名文に学ぶ-英文味読の真相39 [佐藤ヒロシ]

バートランド・ラッセル「寛容の重要性について」

* (語学テキスト)佐山栄太郎(編)『訳注ラッセル選』から採録
* 出典:佐山栄太郎(編)『訳注ラッセル選』(南雲堂,1960年7月刊)pp.108-1093.

目次
The importance of) Toleration 「寛容」(の重要性について)
If there is to be*1 toleration in the world, one of the things taught in schools*2 must be the habit of weighing evidence*3, and the practice of not giving full assent to*4 propositions*5 which there is no reason to believe true. For example, the art of reading the newspapers should be taught. The school-master should select some incident which happened a good many years ago, and roused political passions*6 in its day. He should then read to the school-children what was said by the newspapers on one side, what was said by those*7 on the other, and some impartial*8 account of what really happened. He should show how, from the biased account*9 of either side, a practised*10 reader could infer*11 what really happened, and he should make them understand that everything in newspapers is more or less untrue. The cynical*12 scepticism which would result from this teaching would make the children in later life*13 immune*14 from those appeals to idealism*15 by which decent people are induced*16 to further*17 the schemes*18 of scoundrels*19.
【ヒント】
 世の中に寛容ということが行われるためには学校で生徒に何を教えたらよいか。新聞の読み方を教えるとすれば,例えば,どんなふうにすべきか。新聞の記事は大抵本当のことを報じているのか。懐疑的な習慣はその児童の将来にどんな結果をもたらすか。
【語句】
*1 If there is to be 「もし...があるべきだとすれぱ」「...があるためには」
*2 schoo1s とは高・中学校のこと。普通には大学は含まない。
*3 weighing evidence 「証拠を考量する」
*4 give full assent to 「...に完全に賛成する」 この表現をよく覚えておく。
*5 proposition「陳述」「主張」
*6 rouse political passions 「政治的激情,激論を引き起す」
*7 by those の those は newspapers.
*8 impartial 「公平な」「偏しない」
*9 biased account 「偏向した記述」
*10 practised 「熟練した」
*11 infer「推論する」「結論する」
*12 cynical[sinikl]「冷笑的な」「皮肉な」これはものになかなか美点を認めない,とかく難くせをつけるような性質を言う。
*13 in later life 「後になって,大きくなってから」
*14 immune[imju::n]「免疫の」これは from を伴うことが多い。
*15 idealism 「理想主義」「観念論」
*16 be induced to 「勧められて...する」
*17 further = promote, help forward.
*18 scheme[ski:m]「計画」「計略」
*19 scoundrel 「悪党」「ふらち者」

【構文】
which ... believe true の which は believe の目的で,true は補語。true の前に to be を入れてもよい。some impartial account ...は前の read の目的語。最後の sentence には which に導かれる節が二つあり,何れも形容詞節であるが,後の方の which の先行詞は appeals である。

【邦訳】
 もし世の中に寛容というものがあるべきであるとすれば,学校で教えられることの一つは証拠を考量することと,真であると信じる理由のない主張には完全な賛成は与えないという習慣とでなければならない。例えば、新聞の読み方を教えるべきだ。教師は何年も前に起り、その当時政治的激論をまき起した事件を選ぶべきだ。そして生徒に、一方の側の新聞が言っていることと,反対側の新聞が報じていることと、本当に起ったことを公平に述べた物とを読んで聞かせるがよい。熟練した読者は,それぞれの側の偏よった記事からどういうふうにして本当に起ったことを推論することが出来るか、生徒に証明して見せるべきだ。そして新聞の記事はみんな多少の度合こそあれ,うそであるということを納得させるべきである。このような教育の結果に基づく冷笑的懐疑心があれば,子供が後になってから,おとなしい人たちならばひっかかって悪党の計画を助長するようなことになる,あの理想主義(観念論)にうまく訴える言葉にも、易々と乗らない免疫性が出来ていることであろう。