バートランド・ラッセル「科学技術の描いた奇跡(功禍)」
* 原著:Science and Religion, chap. 10(1935)
* 出典:牧野力(編著)『
ラッセル思想辞典』
(要旨訳です。)
科学技術は人類を一部の迷信・因襲・虚妄から解放した。生産性を高め、生活の便利さと幸福とを増進した。これは
否定し難い功績である。・・・
だが、科学技術は、武器の破壊力を増し、余剰人口を平和産業から軍需産業に振り向け、戦争準備に走り、結局、大戦争(例:第一次世界大戦等)によって生活を圧迫した。古い経済組織の存続を困難にし、産業革命による新思想の激しい衝撃を生み、
古来からの文明は均衡を失った。
中国は先進工業国の侵入により混乱に陥り、
日本は西欧を模範とする飽くなき帝国主義の模倣国となり、
ロシアは新経済組織を樹立しようと急激な企図に走り、
ドイツは新しい装いで古い経済組織の維持を試みた。
現代世界に及ぼしたこれらの闘いを伴うすべての害悪は、科学技術に、根源的には科学に無反省に酔い、知恵を忘れた結果である。
(松下注:牧野氏によるこのあたりの要旨訳は、意訳だとしても、変な日本語になっている。/要するに、「現代におけるこれらの害悪は、一部は科学技術に原因があるが、科学技術も科学から生まれたものである以上、結局は科学にその原因がある。」という主旨であろう。)ここにこれを修正する哲学の果すべき役割がある。
(... The direct effects of scientific technique, also, have been by no means wholly beneficial. On the one hand, they have increased the destructiveness of weapons of war, and the proportion of the population that can be spared from peaceful industry for fighting and the manufacture of munitions. On the other hand, by increasing the productivity of labour they have made the old economic system, which depended upon scarcity, very difficult to work, and by the violent impact of new ideas they have thrown ancient civilizations off their balance, driving China into chaos and Japan into ruthless imperialism on the Western model, Russia into a violent attempt to establish a new economic system, and Germany into a violent attempt to maintain the old one. These evils of our time are all due in part to scientific technique, and therefore ultimately to science.)