バートランド・ラッセル「科学的気質と科学技術」
* 原著: Science and Religion, chap. 10 (1935)(要旨訳です。)
科学的気質の現れである理論的科学(科学理論)から科学技術が生れる。科学的気質と科学技術とには相反した面がある。
(But out of theoretical science a scientific technique has developed, and the scientific technique has none of the tentativeness of the theory. ... )
科学的気質は、事実と証拠とに立脚し、慎重で、断定的でなく、部分的な領域を扱う。だから、その研究成果が、たとえその時に最上の知識であっても、完全かつ永遠の真理だ、とうぬぼれたりしない。早晩、次の研究成果によって修正されることを予想している。真理の追求を望む真の科学的精神は、絶対化を嫌い、独断を排するから、修正のための自由な調査と検討とを常に望む。
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科学技術は、このような開放的な科学的精神の生んだ研究成果であるから、法則性と現実的効用を持ち、科学的精神・気質から独立して、独り歩きする。そして政府や企業に利用される。法則性の強味から、法則の範囲内では断定的で確定的である。だが、広い宇宙と人間世界の中では現実的効用の範囲が限定的・部分的であることを忘れて、実用化されると、つまり、人間と人生の知恵を忘れると科学技術から公害が発生する。
(私の見方が悪いのか、このパラグラフは『宗教と科学』第10章にはどうしても見当たりません。従って、牧野力氏の訳文だけ載せておきます。)