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バートランド・ラッセル「科学と倫理学」

* Source: Religion and Science, chap. 9(1935)

 '科学'は「価値」について述べない。価値は科学の領域外にある。価値とはそれが及ぼす結果と独立して、それ自体で善あるいは悪であるもののことを指す。人間が、これは "価値がある" とか、"価値がない" とか主張する時、その人間自身の感情を表現していて、感情が変ってもなお真理であるような事実を表現しているのではない。
 では、「」とは何か。善とか悪とかの観念が欲望と結合していることは明白で、人間の望むものは「善」で、恐れるものは「悪」である。しかし、万人の抱く欲望は一致せず、「欲望の衝突」が起る。
 '倫理学'とは、万人の欲望がその人自身の主観に左右されて衝突するので、この欲望のもつ主観性から万人を脱却させようとする試みであり、また、政治と密接な関係をもつ万人の欲望に一定の基準の下で、非個人的で、普遍的な意義を与えようとする試みである。個人的な利益が社会の利益と調和すれば、社会の目的にも役だつ。できるだけその調和を創造することが教育と賢明な学校の使命である。
 実際に、万人が現在以上に人類の普遍的幸福に一致する欲望で行動できるようになるには、倫理的な理論によるのではなく、むしろ知性が恐怖から解放されて、大きな豊かな普遍的欲望へと開拓されることが必要である。「善」の定義がどうであろうと、普遍的欲望に向かって、万人が協力することが望ましいのである