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ラッセル関係書籍の検索 ラッセルと20世紀の名文に学ぶ-英文味読の真相39 [佐藤ヒロシ]

バートランド・ラッセル関係語学テキスト-佐山栄太郎(編)『訳注ラッセル選』

* 出典:佐山栄太郎(編)『訳注ラッセル選』(南雲堂, 1960年7月刊。232pp. 現代作家シリーズn.54)
* (故)佐山栄太郎氏(SAYAMA Eitaro:(1902~?)は,昭和7年東大英文科卒。旧制浦和高等学校教授,東大教養学部教授を経て,成城大学教授を歴任/一時期駿台予備校でも教鞭をとられたとのことである
* 手元にある『訳注ラッセル選』は,高校生の時に購入したもので,書き込みが多数あるうえに,カバーがいつのまにかなくなってしまった。そのため,ホームページに掲載するにあたり,本日,京都府立図書館から借りてきた。奥付をみると,1993年=第70冊,と書かれている。現在も多分販売されているだろうと思われるが,受験用の英語の語学テキストが40年間も売れ続けている例は,他にはないのではないだろうか。最近ではラッセルの文章は,受験英語としてはほとんど出題されていないようであるが,読解テスト用には,今でも十分使えるものだと思われる。参考「ラッセルと入試問題」(松下,2004.02.01)

目次

編者はしがき

 バートランド・ラッセル卿については,彼の著作の翻訳全集(松下注:著作集のまちがい)さえ出ている今日,いまさら紹介の要はないであろう。

 現在英国の哲学者,社会思想家の最大なものの一人としてのラッセルを研究するのならば,彼の原著作を読むか,それが出来ないならば,日本文の翻訳にたよればよいのである。ここに編集したラッセル文選は第一義的にはけっして彼の思想の紹介を目的とするものではない。
 第一の目的は英文の読書力の涵養に資することである。しかも,現代の一般社会・人生問題を取り扱った最も典型約な論文を読む力をどのようにして最も効率的につけることが出来るか,この質問に対する一つの実際的解答を示すことがその目的なのである。

 この目的に最も適する教材を選ぶという立場から,従来わが国で大学・高校用の教科書として編纂された大多数のラッセルの論文を調査し,注意深い選定を試みた結果が,ここに集められた百余篇となったのである。
 このようにして集められた百余篇を改めて概観してみると,この偉大なる哲学者・社会批評家の思想とか物の見方というものが,相当によく窺われるのである。ここに本書編纂の副次的目的がおのずから意識されてくる。つまり,集められた各文節はそれぞれの著書からの抜粋であるから断片的とも言えるのであるが,断片は断片として一つのまとまった内容をもっており,それと同時に,それら断片を貫いている思想の筋というものも捕えることが出来る。

 われわれの身辺には解決をせまる問題が山積していると言ってよいであろう。幸福とは何か? 人生はどう生きるべきか? 政治に外交に,国内・国際の問題がある。世界人類の生存を賭けるような問題もある。ラッセルの文章はこのような諸問題に対してわれわれの眼をひらいてくれる。世界の情勢・人類の動向を観る窓をあけてくれるのである。このような意味から,このささやかな編著はラッセルに基づく人生読本であり,社会学の教科書とも言えるかも知れない。

 外国語を学ぶ究極の目的はこのような文化の摂取にあるものと思う。しかしその前にわれわれはまず英文が理解出来るという段階を経なければならないのである。この第一の目的を達するための便宜として編者は次のような点を考慮した。

 この書物は自習書として作ったものであるから,読者が最も自然のかたちで学習が進められるように考えた。すなわち,文の大意を掴むということをまず第一にし,それが出来てから,詳しく語句の意味を調べ,それと共に構文を解剖する。その後で再び全文の意味を吟味し,最後に文意のよく通った和文に直すという作業を行うのである。
 編者は読者の幅を相当広いものと予想して,低い力の読者を念頭において,解説は出来るかぎりていねいにしたつもりである。高級な読者は本文だけを通読しても,何らかの益を得ると信じている。その中間の読者はそれぞれ自分の力に応じて解説や訳文を利用すればよいであろう。

 もう一つの便宜は各篇が相対する二頁の中に収まるように工夫したことである。各篇はそれぞれにまとまった内容を盛ったものであるため,長短が不揃いであるので,余白のあり過ぎるところはこれを利用して名言,笑話,練習間題などを挿入して体裁を整えた。
 最後に本書は小説などと異って一回で読み棄てる性質のものでなく,再三復習して利用すべきものと考えて,詳しい索引をつけた。


 以上のような編者の意図を十分にくみとってこの書を利用されることを心から望んでいる。なお,注や訳文については教科書編纂者や翻訳者の先輩のお仕事に多大の,恩恵を蒙っていることを感謝する。また組み方や索引などについては当出版社の関係者から多大の努力をしていただいたことを,ありがたく思っている。
 佐山栄太郎