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バートランド・ラッセル「歴史教育の実例」

* 原著:Principles of Social Reconstrution, 1916
* 出典:牧野力(編)『ラッセル思想辞典



 ・・・。どの国においても、歴史の授業は自国を偉大化する形で行われている。・・・。
 単純で瑣末的とも言える一例を見てみよう。
 たとえば、ウォーターロー(ワーテルロー)の戦いの諸事実は、微に入り細に入り正確に知られている。しかし、(にもかかわらず)初等教育で教えられる内容は、英・独・仏とで、かなり違っている。
 英国の子供はプロシア軍(独軍)がその戦闘でなんらかの役割を演じた、などとはまったく知らない。他方、ドイツの子供はブリュッヘル将軍の勇敢な処置が英軍を救い、その日に勝負がつき、ウェリントン将軍は実質的敗者だと思い込む。
 両国で事実が正確に教えられるならば、国民的自尊心(うぬぼれ)はこれほどまでにつちかわれることなく、またいずれの国民も戦争にさいし、自国の勝利を確信する度合いは少なくなり、喜んで戦おうとする態度もより少なくなるだろう。
History, in every country, is so taught as to magnify that country. ... If the facts were taught accurately in both countries, national pride would not be fostered to the same extent, neither nation would feel so certain of victory in the event of war, and the willingness to fight would be diminished.