バートランド・ラッセル「人種問題」
* 原著: New Hopes for a Changing World, 1951, pt.2, chap.12『ラッセル思想辞典』には chap. 13 となっているが、chap. 12 の誤記
* 出典:牧野力(編)『ラッセル思想辞典』所収
安定した世界政府を実現可能とするために解決すべき最も頑固かつ困難な問題の一つは、異なる人種間に起りがちな敵意(敵対感情)である。
One of the most obstinate and difficult of the problems to be solved if a stable world Government is to become possible is the hostility which is apt to arise between different races.
人種的反感は、人口過剰と密接に関連があり、一方に優越感への願望、他方に劣等感への恐怖、この二つから生れる。優越感が動揺して劣等感に陥る。また群居性から敵対心が起る。
人種問題解決には三つの型がある。解決というよりも、暴行、私刑(リンチ)、殺人の回避法である。
第一、地理的接近を避ける。
第二、厳格な階級制度を作る。
第三、完全な平等を実施して、自由な移住を認める。
世界政府の憲法は、自由移住を抑制・禁止したりしない。階級制度は昔成功したが、現代世界では弥縫策(びほうさく)に過ぎない。
人種的に異なる人々が同一箇所に暮らさなければならない場合,唯一の現実的な解決策は完全な混血である(異人種間の結婚)。
Where racially distinct populations have to live side by side, the only real solution is complete intemixture.
人種間の混血は生物学的に望ましくないとの主張があるが、この見解には何の根拠もない。また、黒人が白人よりも先天的に知性が低いとの議論にも明白な理由はないが、それについては、黒人が白人と平等な環境的、社会的条件が与えられるまで、判断することは困難であろう。ナチスとそのイデオロギー的先駆者は、人種の純潔性について精力的な宣伝をしたが、事実は彼らの主張と反対であることを示している。
The Nazis and their ideological precursors made a vigorous propaganda for racial purity, but the facts are againt them.
T 人種的反感は動物的な過去から遺伝された不合理な偏見と無知な情動だが、完全な払拭が全く不可能ではなく、ただ困難なだけである。猫と犬とを同時に飼えばわかる。真に世界平和を欲するならば、動物性を離脱する知性と感性を育てるしかない。 (挿絵:From Russell's The Good Citizen's Alphabet,1954)