バートランド・ラッセル「哲学の役割」
* 出典:牧野力(編)『ラッセル思想辞典』所収* 原著:Source: Philosophy for laymen, 1950), chapter 2
哲学はその最も初期の時代以来、一方で世界の構造の理論的理解を目的に、他方で人間に可能な最善の生き方の発見と教示を目的にしており、これらの二つの異なる目的は互いに密接に関連すると信じられていた。ヘラクレイトスからへーゲル、さらにマルクスにいたるまで、終始一貫、哲学はこの二つの目的を捨てず、それは純粋に理論的でもなく、また純粋に実践的でもなく、むしろ一つの宇宙論を探し求め、その上に実践倫理の基礎付けをしようとした。
哲学はこのようにして、一方では科学に、他方では宗教に密接に結びついた。
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天文学でのピタゴラス学派、生物進化でのアナクシマンドロスとエンペドクレス、物質の原子的構成説のデモクリトス等々、これらの人々の推測は後世の科学者達に種々の仮説を提供したが、これらの哲学者達がいなければ、後世の科学者達にもこのような仮説は思い浮かばなかったかも知れないのである。
哲学はその理論的な側面では、少なくとも部分的には、科学がまだテストできない「大きな一般的仮説」を組み立てることにその本質・役割がある、と言ってよいだろう。
・・・。科学が知り得たことに感銘をうけ、科学が知り得ないでいることを忘れてしまう人もいれば、科学が知り得たことよりも科学がまだ知り得ないでいることに多くの興味を持つために、かえって科学の業績をみくびる人もいる。(どちらの態度も正しくない。)・・・。
人間には、科学では答えられない、次のような、尽きることのない熱烈な関心を寄せる問題がある。
・人間は、死を乗り越えて生きられるか(Do we suvive death?)
・精神は物質を支配できるか(Can mind dominate matter?)
・(あるいは)物質が完全に精神を支配するのか(Does matter completely dominate mind?)
・字宙は目的をもつか(Has the universe a purpose?)
・宇宙は盲目的必然性に操られているか(Is the universe driven by blind necessity?)
・宇宙は単に一つの混沌にすぎず、我々が発見すると考える自然の諸法則は、我々自身の秩序に対する愛によって生み出される幻影にすぎないか(Is the universe a mere chaos and jumble, in which the natural laws that we think we find are only a phantasy generated by our own love of order)
・我々が生命のことを強調するのは、たんに地球というものにこだわるからであって、単なる人間のうぬぼれにすぎないのか(Is our emphasis upon life mere parochialism and self-importance?)
等々の疑問に生々しい関心を持ち続け、提案される答をよく吟味することが哲学の機能の一つである。
(以下、哲学の2つ目の役割に関する記述は省略)
Some men are so impressed by what science knows that they forget what it does not know; others are so much more interested in what it does not know than in what it des that ehye belittle its achievements....
... there are a number of purely theoretical questions, of prerennial and passionate interest, whiichi science is unable to answaer, at any rat at present.
Do we survive death in any sense? .. Has the universe a purpose? ... Is our emphasis upon life mere parochialism and self-importance?
To keep alive the interest in such questions, and to scrutinise suggested answers, is one of the functions of philosophy.