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バートランド・ラッセル「哲学の科学的方法」

* 出典:牧野力(編)『ラッセル思想辞典』所収
* 原著:Source: Mysticism and Logic, and Other Essays, 1918, chap.6



 哲学的問題を考える動機は大体二つで、一方は、宗教や倫理、他方は、科学から生れる。二つの動機は対立して、互いに甚だかけ離れた体系を導き出す。プラトン、スピノザ、へーゲルは前者に、ライプニッツ、ロック、ヒュームは後者に属する典型である。アリストテレス、デカルト、バークリ、カントには両方の動機が共に強く存在する。ハーバート・スペンサーは、科学的哲学者の中に入れられる。
 道徳的・宗教的な動機は全体として哲学の進歩には障害となった。哲学真理理を発見したければ、かかる動機を意識的に取り除くべきである。昔、科学も宗教的・倫理的動機に巻き込まれて進歩を妨害された。だからあえて言う、哲学が霊感をうる源泉は科学であり、倫理や宗教ではない。
 哲学を科学の上に基礎づけるには、二つの異なる方法がある。一方は、科学の最も一般的な諸結果に重点を置き、さらに一層の一般化と統一とを与えようとするやり方である。他方は、科学の諸方法を研究して、必要な修正を加えつつ、哲学独自の領域にそれを適用する方法である。
 科学から霊感をえた多くの哲学は、その時には最終的成果と思われただけで実はほんの一時的なものに過ぎない科学的諸結果にとらわれたため、方向を誤った。個別に諸科学の領域から哲学の領域への移植を行って利益があるのは、結果ではなくて方法である。科学を成功させた一般的方法原理を哲学に適用する可能性と重要性とを指摘したい。科学的方法に導かれる哲学と宗教的・倫理的諸観点に導かれる哲学との対立点は、字宙の観点と善悪の観念とである。

When we try to ascertain the motives which have led men to the investigation of philosophical questions, we find that, broadly speaking, they can be divided into two groups, often antagonistic, and leading to very divergent systems. These two groups of motives are, on the one hand, those derived from religion and ethics, and, on the other hand, those derived from science. ...
It is my belief that the ethical and religious motives in spite of the splendidly imaginative systems to which they have given rise, have been on the whole a hindrance to the progress of philosophy, and ought now to be consciously thrust aside by those who wish to discover philosophical truth. ...
... Much philosophy inspired by science has gone astray through preoccupation with the results momentarily supposed to have been achieved. It is not results, but methods that can be transferred with profit from the sphere of the special sciences to the sphere of philosophy. ...