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バートランド・ラッセル「富を得たいという欲望」

* 出典」野原三郎(編著)『訳注英米作家選-19世紀末より,ラッセル,モームなどに至る53作家の名文』(南雲堂,1962年10月刊。235pp. 現代作家シリーズn.60:
英語の訳し方講義/語学テキスト)

The desire for wealth


富を得たいという欲望

The desire for wealth is, in most cases, due to a desire for security. Men save money and invest*1 it, in the hope of having something to live on*2 when they become old and infirm, and of being able to prevent their children from sinking in the social scale*3. In former days, this hope was rational. since there were such things as safe investments. But now security has become unattainable : the largest business fails. States go bankrupt, and whatever still stands is liable to be swept away*4 in the next war. The result, except for those who continue to live in a fool's paradise, is a mood of unhappy recklessness, which makes a sane consideration of possible remedies*5 very difiicult.
(注:野原氏は,どういうわけか,他の引用文も含めて,本書では出典を一切示していませんが,このパラグラフは次の著作からとられています。
In Praise of Idleness and Other Essays, 1935, chap. 7: the case of socialism: 3. Economic Insecurity の第2パラグラフ.)


*1 invest 「投資する」/*2 live on 「... で食べていく」/*3 sinking in the social scale 「零落する」/*4 to be swept away 「一掃される」/*5 a sane consideration of possible remedies 「可能な治療の健全な熟慮」→「ありそうな救済法を分別を以て考究してみること」
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【訳】多くの場合富を得たいという望みは,安全を得たいという望みから生じる。そして老年となり弱くなった時に食べてゆく手段を得ようとして,そしてまた自分の子供達が零落しないようにと人は金を貯め,その金を投資する。昔はこの期待は合理的であった。というのは,当時は,安全なる投資の対象とも言うべきものが存在していたから。しかし現在では,保証というものはかち得られ難い。いかに大きな事業といえども失敗する可能性があり,国家も破産する。そして現在存立する一切のものが次の戦争が起こる場合は一掃せられぬとは保証し難い。その結果不幸な自暴自棄的な気分が湧いてこよう。痴人の夢を見ている人々は別として。そしてこの自暴自棄な態度は,何らかの救済法を健全に考究せんとすることを困難ならしめよう。