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バートランド・ラッセル「愛と人生」

* 出典:牧野力(編)『ラッセル思想辞典』より
* From: Marriage and Morals, chap. 9


 人生で,愛は最も大切なものの一つである。宗教,戦争,愛の三者は理性外活動である。現代,宗教と愛との間にある反目以上に,一層手ごわい敵として,仕事と経済的成功という信条とがある。
.. In the modern world, however, love has another enemy more dangerous than religion, and that is the gospel of work and economic success.

 愛は,単なる性交への欲求をはるかに越えた何かを含んでいる。愛は人間を孤独から救い出す。情熱的な愛は,男と女の自我の厚い壁を取り除き,二人が融合し,新しい一つの人柄(パーソナリティ)を作り上げる。
Love is something far more than desire for sexual intercourse. ..

 自然は人間を,孤独に耐えられず,他人との協力なしには生物学的目的を達成できないように作った。文明人は愛の媒介なしには性的本能を十分に満足できない。人間同士の深い親愛感や強い連帯感を味わった経験のない人は人生の最良のものを見失う。この失望感から圧迫や残酷に傾き易い。社会学者は,情熱的な愛に正当な場を与えることに関心を向けねばならない。愛を伴わない性交は本能に深い満足感を与えない。愛は無政府的な力をもつが,愛の中へ子供のことが入ると,愛はそれまでと全く違った次元に立つことになる。愛は種の生物的な目的に奉仕するものとなり,子供に関する社会道徳が必要となる。子供の利益を傷つけない限り,愛に干渉しないのが賢明な性道徳の主な目的の一つとなる。
... Nature did not construct human beings to stand alone, since they cannot fulfil her biological purpose except with the help of another ; and civilized people cannot fully satisfy their sexual instinct without love. The instinct is not completely satisfied unless a man's whole being, mental quite as much as.physical, enters into the relation.