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神山正治(編訳注) Bertrand Russell's Best への編者はしがき

* 出典:(大学語学テキスト) 神山正治(編訳注) Bertrand Russell's Best(金星堂, 1961年9月刊。164pp.)
* (故)神山正治(カミヤマ・ショウジ:1908~?):東大教養学部教授。日本バートランド・ラッセル協会設立発起人の一人

 編者はしがき(神山,1961年8月)z

 ラッセルが生まれたのは1872年だから,(1961年現在)すでに89才の高齢に達しているはずである。それにもかかわらず,彼の世界平和確立への情熱はいささかの衰えも見せていない。つい数週間前の日本の新聞にもどういう目的のものであったか失念したが,デモ隊の先頭に立って官憲と向かい合っている彼の姿が出ていた。実際彼の一生は,世の中の偏見や迷信打破の戦い,また偏見・迷信から生まれた国家間の戦争防止の戦いで貫かれているといってよいと思う。
 世の中の偏見・迷信打破のたたかいは,彼の場合はまず既成宗教,特にキリスト教攻撃という形であらわれた。Why I am not a Christian という著書もあるとおり,彼はキリスト教を否定し,キリスト教に包含されている様々な矛盾を徹底的に指摘する。また共産主義や超国家主義を20世紀の宗教と断じ,これらに対する攻撃も手きびしい。個人生活の面では,旧来の宗教家や道徳家によって確立された性道徳に対し,大たん率直な批判を加えて彼らのひんしゅくを買った。
 戦争については,すでに第1次大戦のとき,その愚かさを説いて当局を困惑させ,そのためケンブリッジ大学講師の職を失うにいたった。その後同じく平和を主張する論文を発表したため,6ケ月間投獄されたこともある。第2次大戦を契機として,原爆とか水爆とかいう,想像を絶する偉力をもつ兵器が続々と出現したことは御承知のとおりである。その後今日にいたるまでのラッセルの,筆および口による平和運動はますます激しさを加え,狂気のごとくであると形容しても言いすぎではなかろう。
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 本書はラッセルの数多くの著作から,筆者の興味を引いた章句を集めたものである。ラッセルは数学者でもあり哲学者でもある。その方面の著作も多い。彼の思想・学識は深くまた広い。彼の全貌を把握することなど,とうてい筆者のなしうることではない。だからこの選集をもってラッセルの要約であるなどと断言する自信はない。だがひとわたり読みかえしてみると,短かい章句のよせ集めではあるが,そこに一貫した何かが感得されるように思われる。片鱗ではあろうが,彼の真摯な人間の幸福追求の姿が浮かんでくるように思われる。

 彼の英語は明解でごく標準的である。語学の勉強のテキストとして好適である。筆者は高校上級生あたりを念頭において,できるだけていねいに注をつけた。訳文は日本語としての読みやすさよりも,原文理解に役立つようにということを心がけた。見出しは便宜上筆者がつけたもので,内容理解の一助ともなれば幸いである。読者諸君が,英語の勉強を兼ねて,この偉大な哲人の所説に直接ふれて,何かの感銘を受けることができたら,本書の目的は達せられたことになる。