バートランド・ラッセル「サディスト的衝動」
* (語学テキスト)神山正治(編訳注)『Bertrand Russell's Best』から採録* 出典:神山正治(編訳注)『Bertrand Russell's Best』(金星堂,1961年9月刊。164pp.)
(49) Sadistic Impulses of Men |
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When we pass in review*1 the opinions of former times which are now recognized as absurd, it will be found that nine times out of ten*2 they were such as to justify the infliction of suffering*3. Take, for instance, 'medical practice*4. When anaesthetics were invented they were thought to be wicked as being an attempt to thwart God's will*5. Insanity was thought to be due to diabolic possession*6, and it was believed that demons inhabiting a madman*7 could be driven out by inflicting pain upon him, and so making them uncomfortable. Or again, take*8 moral education. Consider how much brutality*9 has been justifled*10 by the rhyme*11:
A dog, a wife, and a walnut tree*12,I have no experience of the moral effect*14 of flagellation*15 on walnut trees, but no civilized person would now justify the rhyme as regards wives*16. The reformative effect*17 of punishment is a belief that dies hard*18, chiefly I think, because it is so satisfying*19 to our sadistic impulses*20. (From: Unpopular Essays, 1950) |
(以下は,神山正治氏によるコメント及び訳) 【研究】人間には元来残虐性があって,科学的に物を考えることをしなかった過去には,それを例証するものがかなり数多くあった。ここには3つほどの実例が挙げられている。 【訳】今日では馬鹿馬鹿しいことと認められている昔の諸意見を回想するとき,十中八九はそれらが苦痛を与えることを正当化するようなものであることが分かるであろう。例えば医療をとってみるがよい。麻酔剤が発明されたとき,それは神の意志をはばむ試みであるとして,邪悪だと考えられた。狂気は悪魔にとりつかれたためのものだと考えられた。そして狂人の中に住んでいる悪魔は,彼に苦痛を与え悪魔たちを不快にすることによって追い出し得ると信じられた。あるいはまた道徳教育のことを考えてみるがよい。 犬,妻,およびくるみの木は, なぐればなぐるほど良くなるものだ という韻文によって,いかに多くの獣的な行為が正当化されたかを考えてみるがよい。私はくるみの木に対するむちうち刑の道徳的影響については何の経験も持っていない。だが妻に関しては,何人も今日この韻文を正しいと考えるものはないであろう。刑罰の感化力ということはなかなか滅びない信仰であるが,それは主として,刑罰が我々のサディスト的衝動に,非常な満足を与えるからだと思う。 | |
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