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バートランド・ラッセル「核戦争にシェルターが必要か?」

* 原著: Common Sense and Nuclear Warfare, 1958, chapt.2 & Dear Bertrand Russell, 1969, part II, n.7
* 出典:牧野力(編)『ラッセル思想辞典


  (以下は牧野氏による要旨訳です。)

Dear Bertrand Russell の表紙
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 米ソ両陣営の指導的政治家・軍人・官僚・核兵器科学者らが、自己陣営に早く勝利をとあせるから、核戦争の可能性は一般大衆が考えているよりもずっと高い。ダレスもフルシチョフも自分に好都合な計算をする。誰もが防空壕で生き残ろうと思いつくが、全く間違いだ。
 核戦争は、奇襲攻撃か通常兵器戦の激化かに続いて起きる。防空壕で生き残る以前に犠牲者になる。米上院でのギャヴィン将軍の証言で明らかである。
 「現在の計画では、核兵器による死者は少なくて数億人と見積れる。風の吹く方向に特に影響される。もし風が南東に吹けば、死の灰は大部分、ソ連、日本、フィリピンに降下する。逆の方向に吹けば、西欧にそっくり戻って広がる。風向き次第で非戦闘中立国にも及ぶ」。
 ここから起きるものは何か。
 第一、無傷で安全地帯へ移動する人々に、風向きで死の灰は降る。
 第二、大部分の医薬品と病院との破壊、医者・看護婦の死傷から、核兵器傷害者に適切な手当てはできない。
 第三、交通機関・上下水道設備の破壊と機能停止から大都会の生存住民の救出は不可能となる。
 第四、上下水道の大規模な破壊と機能停止から、激烈な流行病が蔓延する。
 第五、半無政府状態下で秩序回復は困難、弱肉強食、略奪、殺人が横行する。
 以上は、わずか一日だけの核爆発の災害である。

 中立国は交戦国の被害の約一割と算出されたが、科学兵器の向上から被害はこれ以上となろう。
 奇型児の誕生、胎児の死亡、「死の灰」による生き残った人々の発病は計算外である。
 月、火星、金星を発射場に利用されると、惨禍は確実に質・量ともに増大する。
 核戦争が始まった時点では中立国を目指すのも、シェルター保有欲と同類で無意味に近い。
 中立論は核戦争勃発以前の戦争阻止の役割だけに意味がある。核兵器の出現で、中立論の論拠と効用は変質した。
 正気の人は唯々、戦争阻止、完全軍縮、軍事同盟離脱、狂信排斥、中立指向国の国際的団結による対米・対ソ活動、教育改革等に実践的努力を払うしかない。
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