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牧野力(編)『ラッセル思想辞典』より

人口(圧迫)と戦争

(From: Population pressure and war, 1957.)

In: The Human Sum, ed. by C. H. Rolph(London; Heinemann, 1957.
Repr. in: B. Russell's Fact and Fiction, 1961.

 現代世界は、対照的な二つの危険に直面している。水爆(核兵器)を無思慮に爆発させ人類の自滅を招く危険があり、これは大衆の意識にはっきりした印象を与え始めている。これとは反対の危険がある。それは、地球の人口が増大してゆき、少数の有力者達以外の生活はみじめな飢餓状態に陥ってしまう危険だが、これは核兵器の危険ほど広くは理解されていない。この二つの危険はまったく正反対のものだが、関係がないわけではない。過剰人口によって起きる世界的欠乏状態が、なんにもまして核戦争を起こす可能性をはらんでいるからである。・・・。(松下注:アフリカ、中近東、北朝鮮、・・・)
 人口(急増)の圧迫によってひきおこされる戦争は、(歴史上)別に珍しいものではない。・・。
 人口増による圧迫は、太古の時代から人間生活の重大問題であったが、現在の状勢を従前のもの違ったものにしている新しい要素がいくつかある。即ち、
  1. 科学戦の生む完全な破壊(の可能性)
  2. (人口増を吸収可能な)どこの国の領土でもない未開地が地球上にほとんど残されていないこと
  3. (医学の進歩による)死亡率の減少
 などがあげられる。

 ・・・。第一次大戦以前のロシアは産業が発達しておらず、穀類の輸出国だった。第二次大戦前、ロシアに多くの産業が起こり、穀類を輸出しなくなった。ロシアは第一次世界大戦では敗北し、第二次世界大戦では勝利を得た。こうした事実を考えて見るとき、多くの後進国(開発途上国)が始めた急速な産業化競争は、別に不思議なこととは言えなくなっている。
 以上の理由からして、たとえどのような手段をつくそうとも、次の20年間に世界の多くの最も重要な地域で貧困と栄養不足が増大するであろうことは、ほとんど確実なことと言える。この下降カーブは、人口の増加率が弱まるまで続くであろう。生活条件の悪化は、不満を増大させ、世界の繁栄している地域をうらやむ気持ちを高めることになる。こうした感情は、冷静に見れば誰にも利益をもたらさない場合でも、戦争を発生させがちなものである。
(The deterioration in living conditions must be expected to produce increasing discontent and increasing envy of the more prosperous parts of the world. Such feelings tend to produce war even if, on a sane surevey, no good can come of war to anybody.)