Bertrand Russell : Portal Site for Russellian in Japan

バートランド・ラッセル「倫理と道徳の不可欠性」

* 原著:Human Society in Ethics and Politics, 1954, chap.1)
* 出典:牧野力(編)『ラッセル思想辞典』より


 人間という哺乳類の一種属が成功したのは、他の動物と区別されるもの、つまり、言語、火、農耕、書字、道具、そして大規模な協力のおかげである。しかし協力作業という点では、まだ完全には成功していない。他の動物と同様に、人間にも衝動と情熱とに充ちているが、その衝動・情熱は、人間の出現の過程では、概して生き残る上では役立った。しかし、情熱はしばしば自らの挫折をまねくものであること、また、ある種の情熱を少なく、他の情熱をより大きくすれば、人間の欲望はより多く満たされ、一層幸福になれることが人間の知性のお陰で明らかになった。・・・。
 知性と創意工夫が社会組織を一層複雑化するにつれて、協同すれば利益は拡大し、競闘すればそれは減少する。'倫理と道徳'(綱領)とが人間に不可欠なのは、知性と衝動・情熱との間に葛藤があるからである。知性と衝動とのいずれか一方しかなければ、倫理の生れる余地はないだろう。
 人間は情熱的で、強情で、かなり'狂気'じみている。その狂気によって人間は、自分にも他人にも災害を引き起こす。だが、衝動に駆られる生活には危険な面と同時に人間が生きて行く上の妙味を生む面とがあるから、この妙味を保持しなければならない。衝動を発揮するのと抑制するとの間で、人間が幸福に生きる拠り所としての倫理は、どうしても一つの中間点を見出さねばならない。人間性の奥底にこのような葛藤があるからこそ、倫理学への念願が生れるのである。
(注:イラストは、ラッセルの The Good Citizen's Alphabet, 1953 より)
But as intelligence and invention increase the complexity of social organization, there is a continual growth in the benefits of co-operation, and a continual diminution of the benefits of competition. Ethics and moral codes are necessary to man because of the conflict between intelligence and impulse. Given intelligence only, or impulse only, there would be no place for ethics.