バートランド・ラッセル「英国の非同盟中立主義」
* 原著:Bertrand Russell's Fact and Fiction, 1961, Part IV, chap.9 ( = The Case for British Neutralism)* 出典:牧野力(編)『ラッセル思想辞典』
『ラッセル思想辞典』では引用元として、Part III, chap. 3 も挙げられているが、牧野氏の勘違いのように思われる。
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世界の強国は、今、A,B,Cの3つのグループに分けられる。AとBとは相互に抱く相手への不信や敵意から核戦争の脅威を世界に撒き散らす集団で、Cは中立諸国である。
( The Powers of the world are, at present, divided into three groups, which we may call A and B and C. C is the group of uncommitted nations.
世界の危険な情勢は、このA・Bの共通の特徴、つまり、相手(の国)を信用できない(treacherous 信用を裏切る)、嘘つきで、好機だと思えば何時でも戦争を仕掛けてくる国だと疑っている(思っている)。・・・。
( There are many things which A and B have in common. ... Each believes the other to be treacherous and deceitful, and suspects it of an intention to launch an unprovoked war whenever the time is thought propitious.)
現在ある論理的可能性は、(1)戦争、(2)長期触発状態、(3)真の平和共存への道、の三つである。
( The logical possibilities existing at present fall under three heads: first, war; second, prolonged brinkmanship; and third, peaceful co-existence.
第一、戦争勃発で、一時的勝利が一方にあっても、死の灰の降下で、一、二年内に原始的な生活の中で人類は絶滅し、戦争目的を達成しない。南半球南端に暮らす人々も長生きできず、白痴や奇形児が生れる。
第二、何時戦争が勃発するのかという長期化する毎日の不安な暮しは、精神不安定と軍拡による生活水準低下を招く。これに耐えられずに、一か八か、情動的に戦争に運命を賭ける狂信状態に陥る。
英米連合論は英米強化の論理にならない。
英国の米軍基地はソ連の英国攻撃の口実となる。攻撃されたら、米軍は必ず助けに来るとの保障はない。(米本国自体がそれどころではないからである。)
英米同盟による大戦勃発抑止論は無効となる。英国人の立場から言えば、英米同盟に対し、ソ連は一、二時間で英国を破滅できるから、英国には破滅しかない。愛国者としても、人類的立場からも、英国中立論を提唱したい。
英国は中立である方がより安全だと信ずるが、それ以上に中立の重大な理由は、戦争防止と不信解消、軍縮徹底と世界安定に英国が積極的に貢献できるからである。
米ソの不信は、一方的な軍縮が不可能なことを示し、第三国群の国際的団結による公正な働きかけ以外に真の好転はない。米ソの信頼は第三国群の公平な漸進的、双務的、具体的措置以前には得られない。英国は過去の 経験と実績とから、真の平和運動の陣頭に立つべきである。