バートランド・ラッセル「J.コンラッドについて」
* 出典:>R.カスリルズ、B.フェインベルグ(編著),日高一輝(訳)(→ 松下訳に変更)『拝啓バートランド・ラッセル様(市民との往復書簡集)』'・・・。ジョセフ・コンラッド>(Joseph Conrad, 1857-1924:ポーランド生まれの英国の小説家)に対してあなたがどのような反応を示されたか、それを知ることは私の研究にとってとりわけ価値があります。・・・。『自伝的回想』(Portraits from Memory and Other Essays, 1956)のなかであなたは、コンラッドに対する並はずれた信頼関係を記述されています。・・・。'
(ラッセルからの返事・1961年10月3日)
拝啓 ワッツ様コンラッドと私との間の特異な共感については、私自身これまで十分理解していたとは言えません。私は、2つのレベルがあると常に感じていたと思います。1つは、科学と常識(common sense)のレベルであり、もう1つは、恐ろしく、地中にあり、そして間歇的に湧き出るようなレベルのもので、ある意味では、ありふれた日常的な見方よりもより真理をふくんでいます。あなたはこれを悪魔派の神秘主義(Satanic mysticism)というふうに記述するかもしれません。私はいままで一度もそれ(後者のレベルのもの)を真理だと「確信」したことはありませんが、激しい感情の瞬間においては、それがわたしをとらえてしまいます。それは、最も純粋な知的根拠から弁護することができます。たとえば、われわれが注目しようと思う事物のせいで、物理学の法則だけが真理のように思えるというエディントン(A.Eddington, 1882-1994:英国の天文学者)の主張によってです。
(画像:ラッセルがもっとも共感をもったコンラッドの作品『闇の奥』)
コンラッドにたいして私が抱いていた感情は、(単純化して言えば、多分)彼の情熱と悲観主義とが結びついたものによっていたと思われます。あなたは、コンラッドに対する私の感情は、孤独についての共通感覚(a common sense)にもとづいていたのではないかとお尋ねになっておられますが、そのとおりだっただろうと思います。けれども、その経験は、継続していた間ずっと、分析するのにはあまりにも強いものでした。・・・。
敬具 バートランド・ラッセル
(From: Dear Bertrand Russell; a selection of his correspondence with the general public, 1950 - 1968. Allen & Unwin, 1969.)
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