同性愛について(『拝啓バートランド・ラッセル様』所収書簡)
* 出典:『拝啓バートランド・ラッセル様_(市民との往復書簡集)』'・・・。私は、過去23年間幸福に結婚生活をしてきました。そして一番下が8歳、一番上が21歳の、5人の子どもがいます。約2年前、私の妻は同性愛を始めました。・・・。妻は、他のことでもそうですが、あなたの『なぜ私はクリスチャンでないか』の p.55 を根拠に、この同性愛を正当化しています。そのページにはこう書かれています。
「子どもが関係しない場合には、性関係は、国家にも隣人にも関係ないまったく私的な問題であると%認められなければならない。子どもを産まないある種のセックスは、現在(1927年頃)では、刑法で処罰される。これはまったく迷信にとらわれたものである。なぜなら、その問題は、直接の当事者以外、誰にも影響を及ぼさない問題だからである。・・・。」私個人としては、あなたの主張は、まったく誤って解釈されていると信じています。それゆえ、次の質問をさせていただきたいと存じます。
- 先に述べたような事情の下、同性愛は単に直接の当事者2人だけの問題でしょうか。
- もしそうだとすると、2つの家庭の(同性愛関係の2人以外の)他の家族たちの幸せの問題は、どう考えたよいのでしょうか。
- p.209であなたは、「結婚は、2人の人間の間に存在する最良かつ最も大切な関係である」と書かれています。男性と女性との間の結婚という関係は、2人の女性の間のどのような関係をも乗り越えるべきものではないでしょうか。
- あなたのご意見では、前に述べました事情の下にあっての同性愛は、はたして道徳的に正当化されるものでしょうか。・・・。'
ラッセルからの返事・1959年11月24日付)
拝 啓同性愛についての私の態度は、同性愛(関係)は(通常の)異性愛(関係)と同様に考えるべきだということです。「直接の当事者だけの問題にすぎない」と私が言うとき、その中に直接の当事者である夫か妻を含んでいることは当然のことながら、子どもたちもまた明らかにかかわりがあります。こうした家族との関係を考慮すると、しばしば、婚外の同性愛関係や異性関係は、望ましくないものとなります。しかし、結婚をしている2人のうちの一方が、誰か伴侶以外の他の人と深くかつまじめな恋愛関係にあるならば、その結婚生活が幸福のまま続くことはほとんど不可能でしょう。そしてときには離婚が最良となるでしょう。そのような問題にたいして、一般的なルールを作ることはできません。
敬具 バートランド・ラッセル
Dear Sir,
My attitude about homosexuality is that it should be regarded no differently from heterosexual relations. When I say that it is a matter only for the people immediately concerned, I should certainly include a husband or wife as immediately concerned; and the children also, obviously are concerned. Very often these family considerations would make extra-martial homosexual or heterosexual relations undesirable, but, if one party to a marriage is deeply and seriously in love with someone else, it is hardly possible for the marriage to remain happy, and sometimes divorce would be best. One cannot make general rules in such matters.'
Yours sincerely
Bertrand Russell
(From: Dear Bertrand Russell; a selection of his correspondence with the general public, 1950 - 1968. Allen & Unwin, 1969.)