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性教育(拝啓バートランド・ラッセル様より)

* 原著:R.カスリルズ,B.フェインベルグ(編),日高一輝(訳)『拝啓バートランド・ラッセル様_市民との往復書簡集』

目次

I.あなたは、性教育が必要だとお考えですか。/II.もしそうなら、誰がやるべきでしょうか。その子供の両親ですか、それとも教師ですか。/III.何歳から始めるべきでしょうか。/IV.通常良いといわれている方法にあなたは賛成ですか。/V.男女共学は、性教育に役立つと考えますか、それとも阻害すると考えますか。/VI.我々は、性にとらわれすぎるのではないでしょうか。

ラッセルからの返事(1951年8月15日付)

拝復 ドーヴェン様
 ・・・。わたしは、子どもの性教育についてはかなりの経験をもっています。・・・。まず第1に、自分の子どもたちにたいして、第2に、わたしが一時経営していた学校(Beacon Hill School)の非常に幼い子どもたちにたいして、第3に、わたしの友人たちの子どもたちにたいしての性教育の経験です。大人たちがいろいろな禁止行為をするという問題を除けば、性教育の問題には何ら困難なことはないと思います。質問に順番にお答えしましょう。

I.性教育の必要性

 たしかに必要です。子供たちは放っておけば、他の子供たちの、不正確かつ下品な猥談から性知識を得ます。それは、性知識を得る最良の方法ではありません。両親は、決まって自分たちの若い頃のことを忘れ、もし自分らが子供たちに性について何もしゃべらなければ、子どもたちは性について何も知らないでいるだろうと想像します。

II.性教育の適任者

 もし両親が性の問題に分別を持つことができるのならば、両親がすべきです。しかし、大部分の両親は、彼らが自分の子どもをこの世にもたらしたその方法について何か恥ずかしいことがあるかのような考えでいます。親たちがそのように感じるかぎり、性教育は学校の先生によって行われるべきです。

III.性教育を行うのに適切な年齢

 これは、ある程度は子供たちの知能によってきまります。唯一重要なことは、性教育は思春期前に終わっていなければならないということです。なぜなら、思春期前のほうが、思春期以後よりも、特別な感情を持たずに性について理解可能だからです。

IV.性教育の正しい方法

 どんな方法が現在一般的に良いと考えられているかわたし知りません。正しい方法は、人がその他の全ての問題を扱うのと同様に、性の問題を取り扱うべきだということです。子どもが好奇心を示したらいつでも、子供たちの問いにたいして、そのとき子供たちが知りたいと望んだものを十分に満たすまで、答えてやるべきです。わたしは、性知識は、掛け算の九九の表をのように、むりやりに子どもたちに押しつけてはならないと思っています。性の知識は、子どもたちの好奇心の度合いに応じて授けるべきだと思います。

V.男女共学は性教育に役立つか。

 性教育に役立つと思います。もし親や教師が、自分たちの感情や振る舞いから、性の問題に関する慎み深さを取り除くことができれば。

VI.現代人は性にとらわれすぎていないか?

 われわれはあまりにも性についてとやかくいいすぎてはいないかとのあなたのご質問。わたしはたしかに、古風な考えをいだいている人たちはあまりにも性をとやかくいいすぎると思っています。かれらは性をあまりにも重要なことと考えすぎるために、若い人たちの知性を束縛し、若者たちの感情をゆがめます。そうして子どもたちをまったく不自然な程度まで、性にとらわれさせてしまいます。これが、従来の性教育のやり方の避けがたい結末です。自由があるときにはじめて、性はそれにふさわしい場を得、性の妄想にとり憑かれた(豚飼いの守護聖人)聖アントニーの場合のような狂気に陥らなくてすみます。
 敬具
 バートランド・ラッセル
(挿絵:From B. Russell and His World, by R. Clark, 1960, p.79.

I have had a fair amount of experience of the sexual education of children, first with my own children, second with the very young children in a school which I kept at one time, and third with children of my friends.