バートランド・ラッセル「死の恐怖」
* 出典:R.カスリルズ,B.フェインベルグ(編),日高一輝(訳)『拝啓バートランド・ラッセル様_市民との往復書簡集』
目 次
・・・あなたの著書の
ある一節について、このような質問をすることをお許しください。それは、
死後に
人格的同一性(personal identity)が失われることを恐れるという
人間共通の恐怖心に関する議論です。そうして,あなたは,我々が
生まれる前に(この世に)存在していなかったことを思うことによって狼狽する者はほとんどいないことを考慮すると(in view of ~の点からみて),そのような死後に関する
恐怖心(を持つこと)は
非合理であると,あなたは示唆されました。その議論はその問題をとても粗野かつまずいものにしています。しかし、私は、「(死後)実在しなくなる」ことはぞっとさせるが、「(生前自分は)実在しなかった」ことはそうではないという考えに強く印象づけられたことを記憶しています。・・・」
ラッセルからの返事(1959年8月25日付)
拝復 ニコルズ様
・・・大変申し訳ありませんが、あなたが書いておられるその一節がどの本に出てくるのか思い出すことができません。問題となっているその質問は、過去の不愉快なことよりも将来の不愉快なことのほうがより気にかかるという,もっと大きな不合理性の一部であり、それは、人々がどうして
ハッピー・エンドで終わる物語を好むのかという理由です。
敬 具
バートランド・ラッセル
'... I hope you will forgive me for this enquiry about a passage, in one of your [books]. It was a discussion about the common human fear of losing one's personal identity after death. And you suggested that this fear was unreasonable in view of the fact that few of us are dismayed by the thought that we have not existed before birth. This is putting it very crudely and badly, but I do remember being greatly impressed by the thought "Not to exist" appals us.... "Not to have existed" does not...."
Dear Mr Nichols, (August 25, 1959 )
... I am very sorry that I cannot remember in what book the passage occurs that you write about. The question at issue is part of the larger irrationality that we mind unpleasant things in the future more than in the past, which is why people like stories to have a happy ending.
Yours sincerely
Bertrand Russell
(From: Dear Bertrand Russell; a selection of his correspondence with the general public, 1950 - 1968. Allen & Unwin, 1969.)