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バートランド・ラッセル「知覚による知識」と「記述による知識」

* 出典:R.カスリルズ、B.フェインベルグ(編),日高一輝(訳)『拝啓バートランド・ラッセル様(市民との往復書簡集)』
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 '・・・わたしたちは、あなたが書かれた『哲学の諸問題』(The Problems of Philosophy, 1912)についてずっと議論してきました。特に、「知覚(直知)による知識」(knowledge by acquaintance)と「記述による知識」(knowledge by description)との区別です。
 わたしは、あなたがこの区別で何を言おうとされているのか、正確に知ろうと努力してきました。・・・。


ラッセルからの返事(1960年1月16日付)

拝復 ミス・ブランスビー様

 ・・・「知覚による知識(直知)」と「記述による知識」との間の区別は、他の人がどのようにあなたに考えさせようとしたかわかりませんが、まったく単純なことです。
 指し示すだけで、言葉による説明なしに、あなたが理解する単語は、知覚による明示的な知識です。これには、目、鼻、猫、犬等のように、最も一般的な名詞全て及び、あなたがご存じの人々の固有名詞もふくまれています。
 これに対し、「記述による知識」は、いくつかの語から成り立つ句(フレーズ)が必要です。一つ一つの単語は、分離状態では一定の対象を指示しませんが、それが一緒になると、時に、ある何物かを指し示します。
 たとえば、「アメリカ合衆国で最も背の高い人(the tallest man in the United States)」です。多分その人が誰であるかを知っている人は一人もいないでしょうがこの記述があてはまる人が存在することは確かです。しかしながら、形式的には正しくとも、何にもあてはまらない記述もたくさんあります。たとえば、「いまこの瞬間、エヴェレスト山頂で一番背の高い人(the tallest man on the top of Everest at the present moment)」です。
 敬 具 バートランド・ラッセル
(From: Dear Bertrand Russell; a selection of his correspondence with the general public, 1950 - 1968. Allen & Unwin, 1969.)