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バートランド・ラッセル「狐を救うために」

* 原著:R.カスリルズ、B.フェインベルグ(編),日高一輝(訳)『拝啓バートランド・ラッセル様_市民との往復書簡集』

目次


 '… あなたが書かれた『幸福の獲得』(The Conquest of Happiness, 1930)のなかの「罪悪感」の章で、あなたは「嘘をつくことは常に不正であるわけではない。」と述べておられます。すなわち、「私(=ラッセル)は、ある狩猟者たちから狐がどっちへ逃げたかを尋ねられた時、狐の逃げた道を見失わせ、疲れきった狐の命を助けてあげるため、その人たちに嘘をついた。」と。
 そのよう場合、それにかわるもっと適切な、正しい方法が別にないなどというのは誤った考え方ではないでしょうか。たとえば、こんなふうに言うべきではなかったでしょうか。
「はい、わたしは狐を見ました。けれども、狐がどこへ行ったかは教えません。なぜならあなたがたの思いやりのない殺害行為の共犯者となりたくないからです。」
 この答は、ハンターたちをして道を迷わせることなく、かれらが何をしようとしているかを反省させることになりましょう…。


ラッセル英単語・熟語1500

ラッセルからの返事(1963年9月28日付)

拝 復  ヤコブソン様、

わたしの(第一の)目的は(ハンターを諭すことよりも)その狐を助けることにありました。その目的のためには、狐が逃げ去った方向に関して、ハンターたちに間違った情報を与えるのが最も効果的な方法でした。
 たとえば専制政治下で経験されるような情況(事態)のように、嘘をつくほうが良い情況(事態)というのはたくさんあります。
 お元気で…
 敬 具  バートランド・ラッセル
(From: Dear Bertrand Russell; a selection of his correspondence with the general public, 1950 - 1968. Allen & Unwin, 1969.)