バートランド・ラッセル「未熟なしるし」
* 出典:R.カスリルズ、B.フェインベルグ(編著)『拝啓バートランド・ラッセル様 - 市民との往復書簡集』'・・・。私はいま成り行き任せでふらふらしています。ただ流されているだけです。・・・。私は,多くの時間,読書したり,音楽を聴いたりして過ごしています。・・・。私はこうした気ままな暮らしかたから純粋な喜びをたくさん味わっていますが,しかし心の中ではこんな生活が永久に続くはずはないということをよくわかっています。・・・。ですから私はもとの生活にもどって,どこかで働かなければなりません。私はかつて教師になりたいと思いました。しかし私は,入学試験というものが大嫌いです。私は自分に関係のないデータは思い出すことができません。そういった種類の頭脳はもちあわせていません。・・・。私は何をなすべきか。働くべきか,この九月に学校へもどるべきか,もっと早くそうすべきか,読書したり,ピアノをひいたりのこのような生活からいっさい身を遠ざけるべきか・・・。
私は働かなければならないでしょう。しかし肉体労働は私にはあいません。私はほかの人たちとは違います! 私は考えることが好きです。・・・。'
ラッセルからの返事・1962年10月8日付)
拝啓 グラッセ君,お手紙から判断すると,あなたは,まったく自分だけの私的な世界にとらわれており,少しわがままであると思われます。わたしがこういうのは,退行的な環境の中で無気力に暮らすのではなく,自分の願望をもっと現実的に表現する道をあなたが見つけてほしいと思うからです。
それには,現実的な問題に取り組む勇気と,その問題の中に含まれる困難を引き受けること,また,そのためのまじめな努力が必要です。もしあなたが勉強をしたいと思うならば,勉強にとりくんでください。勉強したいと思う心をただぼんやり見つめているだけではだめです。肉体労働はけっして悲惨なものではありません。自分自身についてあまりまじめに考えない>(自分自身をみつめない)のは怠慢であり,それは未熟さの証拠(しるし)です。このことをよく考えていだだければと思います。・・・。
敬 具 バートランド・ラッセル
...I am saying this to you so that you seek some more realistic expression of your desire to do more than vegetate in a retrograde environment.
This requires courage to deal with real problems and to undertake hardship and serious effort in their behalf.
(挿絵:From Russell's The Good Citizen's Alphabet,1954)