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バートランド・ラッセル「自由な思考(真理の探究)」

* 出典:R.カスリルズ、B.フェインベルグ(編),日高一輝(訳)『拝啓バートランド・ラッセル様_市民との往復書簡集』

目次


'・・・。僕は15歳です。何冊か哲学の本を読みましたが、その結果、たくさんのたがいに対立する考え方が僕の頭の中に固く植えつけられています。哲学上の問題について、自分自身の意見を形づくろうとしたり、自分自身の結論に達しようとしたりすると、いつも、自分が偏見にとらわれていることに気づき、僕の理性がこれらの対立する諸見解の間を揺れ動くのがわかります。こういうことが起こるのは、特に僕の推論が「行きづまった」ように思われるときか、もしくは以前の誤謬をはっきりと認識したときです。どうしたらこれらのいろいろな考え方(そのなかのいくつかには、高度の誤謬や虚偽がふくまれていると思われる。)から僕の知性を解放し、何ものにもとらわれないで自由に考えることができるよう、あなたのアドバイスをいただけないかと思いますがいかがでしょうか。・・・。'
('... I am 15 yrs. of age and having read several books on Philosophy, have consequently many conflicting views firmly implanted in my own mind. Whenever I try to form my own opinions and reach my own conclusions concerning philosophical matters, I continually find that I am prejuciced and that my reason is being swayed by one or another of these views. This occurs especially when I seem to have reached a "deadlock" in my reasoning or when I have perceived a previous error. I wonder if you could advise me in any way at all on how I might be able to rid my mind of these ideas, some ot which, to my mind, contain a high degree of falasity, and be able to think independently ...')

ラッセルからの返事(1963年3月21日付)

拝啓 ランキン君,
 君の興味あるお手紙ありがとうございます。もっと早く返事をさしあげないですみませんでした。
 たがいに対立するような考え方を発見したからといってくよくよしないよう、おすすめします。たとえそれらが矛盾しているように見えたとしても、いろいろ異なった考え方によって揺り動かされることに抵抗してはいけません。論じつつある見解(立場)に同情を持って理解するようにと激励したいと思います。そのように同情的理解に努めれば君は、異なった哲学上の諸命題を完全に理解したあとで、君自身の考えが明瞭になってくるのを発見するだろうと思います
 わたし自身、新しい観念に触れるたびに、それらが本当に説得力があるように思われた経験をしばしば持ちましたが、何が重要かということが明瞭になったり、あまり重要でないことにそれほど興味をもたなくなったりしたのは、そのような新しい観念に精通した後のことでした。
 知的独立にとって危険なのは、誤りをおかすということではありません。危険なのは、あらゆるものに疑問を発したがらなくなることです。君が一つの考え方を持つようになったら、疑いも同時に保持し続ける必要があります。この疑うということは、自由な心(知性)のためには大変貴重なものです。
 わたしは、「自由な心(知性)」と「からっぽな心(知性)」とを混同してよいとは言っていません。わたしは真理というのはなかなか獲得できないものだということ、また純粋に探求を続けようとする心(知性)と、何ものにもとらわれない自由な心(知性)にとっては、確実性ということはそうやすやすと手に入れられるものではないということを示唆しようとしているだけです。
 わたしはあなたから手紙をもらい、君が様々な考え方と格闘していることを知って嬉しく思います。なぜならそのことを通して、君は創造的かつ価値ある心(知性)の自由に導かれるだろうと思うからです。
 わたしの『西洋哲学史』(A History of Western Philsophy, 1945)をお読みになられることをおすすめします。というのは、私がこの本を書いていて感じた面白さが君の気に入るだろうと思うからです。・・・。
 敬 具 バートランド・ラッセル
It has often been my experience when coming in contact with new idea that all of them seemed persuasive, and it had only been after I had familiarised myself with them that those things which seemed important became apparent and that which was insignificant became less compelling. ...