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バートランド・ラッセ「第一次世界大戦の結果」

* 出典:『拝啓バートランド・ラッセル様(市民との往復書簡集)』

目 次

・・・。あなたの「自伝的回想」(Portraits from Memory and Other Essats, 1956)について、敬意をもって卑見を述べさせていただきますことをお許しください。あなたは、1904年の「英仏和親協商」を嘆いておられます――そして、英国は1914年の紛争の局外に立つべきだったと考えておられます。しかし、そのようにしていたら、ドイツはフランスとイタリアとロシアを打ち負かしていたでありましょう。そして勝利に輝いた軍国主義勢力はさらに意気揚々となり、自由諸国勢力が軍国主義勢力に対抗する希望も持つことができたとは信じることはできません。

ラッセルからの返事(1957年2月20日付)

 拝復 ブリス様
  ・・・。第一次世界大戦でもしドイツが勝利をおさめたら、まことに嘆かわしいことだっただろうという点ではまったくあなたと同意見です。ところがわたしが論じたいのは(そういうことではなく)こういうことなんです――ドイツが勝利を得たという結果よりも、わがほうが勝利を得た結果のほうが嘆かわしかった。(松下注:真意は、どちらも敗北も勝利もしなかったという結果で終わってほしかった。もっと規模の小さな紛争で終わってほしかった。)
 わが国はあの戦争を軍国主義に反対するための戦争だといいました。しかし軍国主義は1918年(第一次世界大戦終結)以来しだいに増大してきました。わが国はあの戦争を民主主義を守るための戦争だといいました。しかし民主主義はその後だんだんと減退してきました。わが国はそれは戦争をなくするための戦争だといいました。しかも、もっと悪い戦争さえその後勃発したのです。ナチスも共産党(の勃興・政権奪取)も、狂暴な第一次世界大戦に起囚しているのです。もし第一次大戦が簡単にすんでいたら、ナチスも共産党も、政権をとることはなかったでありましょう。
 くりかえし申しますが、わたしは、もしドイツがすみやかに勝利をおさめていたら、世界中が喜んだであろうと言っているのではありません。それともあなたは(ドイツ敗北の結果起こった事態を)いま世界が喜んでいるとおっしゃりたいのでしょうか。
  敬具 バートランド・ラッセル
(挿絵出典:Russell's Good Citizen's Alphabet, 1954.)

ラッセル英単語・熟語1500
Dear Mr Blyth,
....We said it was a war against militarism, but militarism has steadily increased since 1918. We said it was a war for democracy, but democracy has steadily diminished. We said it was a war to end war, and it was followed by an even worse war. Both the Nazis and the Communists resulted from the ferocity of the First World War.
 Yours sincerely
 Bertrand Russell
(From: Dear Bertrand Russell; a selection of his correspondence with the general public, 1950 - 1968. Allen & Unwin, 1969.)