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バートランド・ラッセル「宗教の慰め」

「・・・迷信的であり,思考を麻痺させるものとしての宗教の本質(性質)は,自明であるように(私には)思われます。・・・。けれども、多種多様な場合(事例)において、適切な態度(はどういったものか)に関して一つの疑問が私の心の中に存在しています。(たとえば)亡き夫に(死後に)再び会おうという年取った御婦人の真摯な信念(信仰)は彼女の後半生の生活を支える(というような場合)。・・・暗闇を怖がる子どもが、イエス・キリストが自分を見守ってくださっているという安心(reassurance 安堵;再保証)で慰められる(ような場合)。・・・持続的な宗教的信仰を通して、どうやら(apparently)生き残り,体調が良くなるような病人はもう一つの例です。・・・これらのような状況の場合は、現在もっている信仰(心)を育てていくことは望ましいことでしょう。・・・」

出典:ラッセル(著)、日高一輝(訳)『拝啓バートランド・ラッセル様』より



(ラッセルからの返事・1959年12月3日付)

 拝復 サイモンズ様


 お手紙ありがとうございます。私自身は、死後の世界を信じている老齢のご婦人の信仰(心)をひっくり返そうとは思いません。しかし、(個人・私的ではなく)公共の見地からすれば、もっと重要な考慮すべき事項があります。即ち

1、もしも,ある信仰が,それが真理であることに関する証拠を考慮することなしに,支持されることが望ましいと考えられるならば、人は検閲及び検閲に関わるあらゆる悪徳に見舞われます。(注:be landed with 厄介なことをしょいこむ,引き受けるはめになる/ちなみに、講談社刊,日高一輝訳『拝啓B.ラッセル様』では、想像たくましく「それは上陸するときに検閲官の職務とあらゆる罪悪とを一緒に身に着けて上陸するのと同じことになります」と訳出されている。「land」=「陸(上陸)」と思い込んだようである。)

2.非常に多くの誤った信仰が望ましくない社会的影響を与えています。たとえば、カトリック教徒は産児制限に反対し、英国国教徒は離婚した者の再婚に反対します。

3、誤った信仰によって慰めを探し求めるという態度はやや下劣です(心が卑しいです)。

4、子ども(たちの)問題は、老人(たち)の問題よりもより難しいものです。なぜなら、人は子どもたちの将来の社会的活動を考慮しなければならないからです。概して,私は嘘をついて子どもたちを慰めるというのは良い考え(plan 進め方)とは思いません。私は嘘のない同情・共感のほうがよりよいと考えます。
  敬 具
  バートランド・ラッセル


         Apr. 26, I958
Dear Simons,

Thank you fTor your letter. I should not myself attempt to upset the faith of an elderly lady who believed in the life after death. But, from a public point of view, there are more important considerations :
1. If it is thought desirable that certain beliefs should be supported without regard to evidence as to their truth, one is landed with censorship and all its evils.
2. The great majority of false beliefs have undesirable social consequences-e.g., Catholics oppose birth control and Anglicans oppose the marriage of divorced persons.
3. The attitude of seeking comfort through false beliefs is somewhat ignoble.
4. The question of children is more difficult than that of old people because one has to consider their future social activities. On the whole, I do not think it a good plan to commfort children by lies. I think sympathy without lies is better.
Yours sincerely
Bertrand Russell
(From: Dear Bertrand Russell; a selection of his correspondence with the general public, 1950 - 1968. Allen & Unwin, 1969.)