バートランド・ラッセル「少年時代」
* 原著: The Autobiography of Bertrand Russell, v.1(1967), chap.1* 出典:牧野力」(編著)『ラッセル思想辞典』所収
私の少年時代の大部分を通じて、一日の中で最も重要な時間は、ペンブローク・ロッジ(写真右:当時の Pembroke Lodge)の庭園で一人で過ごした時間であった。そして、当時の私の生活のなかで最も活き活きとしていたのは、孤独の時であった。私は自分が考えたことでやや重要と思うことについては、他人に余り語らなかった。そして語ったときには、後悔した。
私は庭園の隅々までよく知っていた。・・・。1878年の年には、ある樫の木に、4月14日(ラッセル6歳の時)に早くも青葉が出たのをおぼえている。
私の部屋の窓からは、高さ約百フィートほどある2本の西洋箱柳が見えた。日が沈むにつれ、家の影がその樹の上を這い上がってゆくのを眺めるのが常だった。
朝はとても早く目がさめた。時折、金星が出ているのが見えた。・・・。毎朝たいてい日の出を見、4月の快晴の日には時々家から抜け出し、朝食前に長い散歩をよくした。日没が大地を赤くし、雲を黄金色に染めるのを見守った。風の音に耳を傾け、雷光に大喜びした。幼少年時代を通じて、孤独感が次第に増していった。・・・。(写真下:ペンブローク・ロッジの庭から西方を望む、1980年、松下撮影)
自然と書物と後には数学が、私を絶望から救ってくれた。・・・。
しかしながら、少年時代の始めの幾年間は幸せであった。孤独ということが息詰まるように感じられるようになったのは、青春期が近づいた頃からであった。・・・。
私は数学が一番好きだった。次に歴史が好きだった。自分と比較する子供がいなかったので、長い間、自分が他の少年たちよりも優れているのか劣っているのかわからなかった。・・・。
自分が知能に優れていることが分るとすぐ、もし出来れば、知的に重要な何事かをなし遂げようと決心した。そして、青年時代を通じて、何事もこの野心を邪魔するのを許さなかった。
Throughout the greater part of my childhood, the most important hours of my day were those that I spent alone in the garden, and the most vivid part of my existence was solitary. I seldom mentioned my more serious thoughts to others, and when I did I regretted it. I knew each corner of the garden, and ... I saw the sunrise on most mornings, ... ,I watched the sunset turn the earth red and the colouds golden; I listened to the wind, and exulted in the lightning. ...