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バートランド・ラッセル「原因という概念」

* 原著:On the notion of cause; presidental address to the Aristotelian Society, Nov. 1912.
* 松下注:これはラッセルの英国アリストテレス協会会長就任時の挨拶。よく間違える人がいるが,Arisitotelian Society はアリストテレスを研究する団体ではなく,諸学の始祖であるアリストテレルの名前を冠した「哲学の体系的研究のためのアリストテレス協会」のことを言う。)
* 出典:牧野力(編)『ラッセル思想辞典* 出典: /FONT>

 原因(cause)という言葉には,人を誤らせる連想がいろいろとどう仕様もないほどまつわりついているため,哲学用語から完全に追放した方がよいくらいだ,と考えています。・・・。

 どの派の哲学者も例外なく,'因果性(causation)'を科学の基本的な諸公理か諸要請の一つだと想像しています。しかし奇妙なことに,天体力学のような進歩した諸科学では,「原因」という言葉は決して出てきません。・・・。
 「原因」という言葉を哲学者たちが通常どう理解しているか知るために,ボールドウィンの辞書を引いてみましたところ,思いもかけぬ発見をしました。というのは,そこには3つの言葉の定義の間に矛盾がありました。
1)因果性(causality):時系列上における,一連の出来事の必然的結合・・・
2)原因(cause, notion of)及び,3)原因と結果(cause and effect)は引用省略]・・・。
 第一の定義は,「必然的」とう用語の定義がなければ,何のことかわかりません。「必然的」という言葉を辞書を引きますと,こう書いてあります。
 Necessary: 単に真であるばかりでなく,いかなる状況下でも真であるものは必然的である。それゆえこの概念には,非常な強制というより以上の何物かが含まれている。それは,事物が生起するにはその条件となる一般的法則がある,ということである。・・・。


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 まず注意すべき点は,「いかなる状況下でも真であるべき」という文句に何か意味をつけるとすれば,この文句の主語は「命題関数」でなければならないのでして,「命題(例:チャールズ一世は断首された。)であってはいけません。命題は単純に真か偽であり,「いかなる状況」という問題は起こりえません。・・・。
 古い「因果律」が長い間哲学者たちの著書に浸透してきた理由は,疑いもなく,関数なる概念が大多数の哲学者たちに親しみがなく,従って,彼らは不当に単純化された陳述を探し求めようとしているに過ぎません。・・・。
 哲学者が通常述べるような因果律は誤りであり,科学では用いられていません。・・・。因果性と関連して考える「自由意志」とか「決定論」とかいう問題は大部分が錯覚で,一部は末だ最終的に解決できない問題です。

No doubt the reason why the old 'law of causality' has so long continued to pervade the books of philosophers is simply that the idea of a function is unfamiliar to most of them, and therefore they seek an unduly simplified statement.