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バートランド・ラッセル「アラブ問題」(Arab questions)

* 出典:R.カスリルズ、B.フェインベルグ(編著)『拝啓バートランド・ラッセル様 - 市民との往復書簡集』
目次


・・・。わたしの母国語はアラビア語です。けれども英語を学ぶ機会を得ましてほんとうに幸運でした。…それで先生のご著書を読むことができました。わたしは先生の論理及び表現の明確さと高度の誠実さに感銘をうけました…。わたしは,スエズ戦争,パレスチナ問題及びアルジェリア戦争について,先生の率直なご意見を伺いたいと思いました。・・・。


(ラッセルからの返事・1960年6月15日)
 拝復 モハメッド・ラドウアン・ハムウィ様

 六月三日付のお手紙,ありがとうございます。わたしの回答は以下のとおりです。
  1. 私はスエズ戦争を愚行であり犯罪行為であると考え,当時,そのように公言しました。
  2. 私は,パレスチナにユダヤ人国家をつくったのは間違いだったと思いますしかしだからといって,ユダヤ国家(イスラエル)が実在している今日,それを除こうとすることはもっと大きな誤りだろうと思います。私は,ユダヤ人とアラブ人が見せている相互の偏狭さはどうしても賛成できません。
  3. 私は,長期にわたってアルジェリアで暮らしてきたフランス系住民の安全に対して何らかの保障を与える条約の下に,アルジェリアを独立させるべきだと考えます。
     敬具  一九六〇年六月十五日 バートランド・ラッセル

    (注)Suez War: 1956年,エジプトのナセル大統領は,イギリス・アメリカによるアスワン=ハイダムの建設中止を受けて,スエズ運河の国有化を宣言。これに反発したイスラエルがシナイ半島に侵攻,イギリス・フランスも軍事介入した。いわゆる第2次中東戦争であり,一般にはスエズ動乱(スエズ戦争)と呼ばれている。

    Dear Mr Mohammed Radwan Hamwi, (June 15, 1960)

    Thank you for your letter of June 3.
    Here are my answers:

    1. I thought the Suez War a blunder and a crime, and said so publicly at the time.
    2. I think it was a mistake to establish a Jewish State in Palestine, but it would be a still greater mistake to try to get rid of it now that it exists. I strongly disapprove of the mutual intolerance displayed by Jews and Arabs.
    3. I think Algeria should be independent under a treaty giving some assurance for the safety of long-term French residents.

    Yours very truly
    Bertrand Russell

    (From: Dear Bertrand Russell; a selection of his correspondence with the general public, 1950 - 1968. Allen & Unwin, 1969.)