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牧野力(編)『ラッセル思想辞典』より

反ファシズム論

(From: In Praise of Idlness, and Other Essays, 1932, chap. 6.


 私のファシズム反対論は、共産主義批判よりも一層簡単で根深い。
 大体において、私は共産主義の目的には賛成で、採用する手段に反対なのである。
 ファシズムについてはその目的と手段との両方に私は反対する。
 ファシズムは複雑で、ドイツ型とイタリア型と違い、他の国でもまた違う。だが、基本線は共通で、国家主義的資本主義で、反民主的である。不遇で、痛みつけられた中産階級の反民主的発想である。最大多数の最大幸福を政治家の正しい原理とせず、特定の個人か階級か国家だけを「選ばれた最上者」と認め、残余の人々全部を彼らに奉仕する力とみなし、強制的に利用する。
 独・伊のファシズムは社会主義から発生したが,社会主義の反国家的要素を切り捨てたファシズムの下で恩恵に浴する一般人は、刑務所内で精勤する囚人が受ける程度の待遇しか与えられない。
 キリスト教は元来、人間を目的それ自体とみなした。人間を選別し、他人の幸福・繁栄に尽す手段と道具視するのに反対した。ファシズムはこの逆である。近代民主主義は、キリスト教の道徳的理想から力をえたもので、政府が金持や有力者の利益だけを特別扱いしないように努めた。ファシズムには哲学がなく、精神分析の対象になるだけである。