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(随想)白石英男「バートランド・ラッセルと原爆と」

* 出典:『日本バートランド・ラッセル協会会報』第23号(1975年5月)p.16.



 一九四五年七月十七日、ポツダム会議の開かれた時、チャーチルは世界を揺がすようなニュースを米国スチムソン長官から聞いた。('Churchill in Memorial', New York Times 掲載)
 それは「無事にベビーが生れた」というのである。そしてこの原爆弾はニューメキシコの砂漠で誕生したことをつけ加えた。
 このときチャーチルの先ず考えたことは、英国も米国ももはや日本を屈服さすのにソ連の兵力を必要としないということであった。
 また彼は日本の海軍は既に皆滅し、残すところはそのホームランドの崩壊を待つのみであると記録している。そこで問題はこの原爆の誕生をどうしてスターリンに、いかなる状況のもとに知らしたがよいかであった。スターリンもトルーマンも共によく協力していたので、ここで波瀾を起こさないで、「何にげなく」スターリンに知らせなければならないとトルーマンもいろいろ思案の末、会議の合間に口頭でスターリンに知らせることにした。またチャーチルに、私(=トルーマン)は新しい形の爆弾を、日本が未だ戦争を続けるなら日本にこれを落とすことに既に決定していたといった。
 七月二十四日頃までにはトルーマンもそれを決定した。
 「一つの新しい爆弾、全日本戦争の決定版だ。なんと幸福な!」 とチャーチルは言う。

 これらの情況に対して、ラッセルの見方はややちがっている。すなわち、
 「一般には日本を屈服させるために、広島、長崎の原爆が必要だったと思いこませようとした。が実は、
 (1)原爆の性能のテスト、
 (2)ソ連を牽制して脅威を与えるために、
 (3)ヴェトナムをはじめ東南アジアの民族に恐怖を与え、民族独立の指導者たちにアメリカに抵抗する希望を失わせることにあった。」
といっている。

ラッセル英単語・熟語1500
 ラッセルの洞察力はさすがに深く鋭いものがあって、よく時流を見抜いてると思う。原爆は更に水爆にまで発展し、広島の分よりも二千五百倍もある威力を持つもので、もし水爆戦争になれば、ラッセルの言うように「北半球は事実上あらゆる人はみな殺しになるだろうし、南半球の相当数の人々も放射能降下物のために死ぬだろうし、勝利のない戦争になって、戦争のおわった時には西側陣営には六人、ソ連には四人、中国には四人しか残らないことになるかも知れぬ。(注:まじめな冗談?)
 そしてこの水爆戦争の起こる可能性は充分にある。と同時にその恐ろしさも段々薄くなって、弓矢を使うのと同じ位に重宝がられてくるだろう」とラッセルは皮肉っている。
 ラッセルが「人類の危機」と題してBBCより放送して全世界にアピールしたり、アインシュタインとの有名な共同声明といい、また世界連邦運動を結成して、その会議を指導したり、その果敢な充実した英知は洵に九十七歳の生命力と共に驚異ではないか。(ラッセル協会会員)