バートランド・ラッセルを読む会(第9回)読書会メモ 009
ラッセル『権力論』メモ(1980.06.03)
[テキスト]東宮隆(訳)『権力』(みすず書房版・ラッセル著作集第5巻)
(注意)ラッセルが本書で言う「権力」(Power)はいわゆる「政治的権力」だけをいうのではなく、宗教家の「権力」なども含む、幅広い「力(Power)」のことを言っていますので、「権力=政治的権力」と考えて読むと、'誤読'することになります。)
第10章 権力の源泉としての信条
一つの社会のもつ権力は、単に、その社会の構成員数、経済資源及び技術的能力によってのみ決定されるものではなく、その社会のもつ信念(Be1ief)のあり方にも影響される。・・・。
ある一つの狂信的な信条(Creed)を社会全体が抱懐するようになると、その社会の権力はしばしば非常に増大する。・・・。
狂信主義(Fanaticism)による権力獲得の古典的な例二つ
- イスラム教の勃興 予言者マホメットの樹立した宗教が、アラビア人の成功の本質的要素をなしていたことは疑えない。(ただし、イスラム教においては、政治の面では、すぐに狂信主義は除去されていった。)
- クロムウェルに率いられた独立教会派の人々の勝利
(クロムウェル自身はいざ権力を握ったとなると、彼はきわめて実際的な政治家であることがわかったが、しかし、彼は自分に従ってくるものたちの狂信主義を無視できなかったために、それが評判を悪くして、ついには、彼の党派の完全な没落をまねいてしまった。)
この二つの例をみてもわかるように、狂信主義の成功は短命に終わっている。
国民とか宗教が党派に力を与えるのに必要な一律性は、むしろ、感情と習慣を土台にした、実践の上での一律性である。それさえあれば、知的確信は無視できる。・・・。
ナチスは不条理な教説をしい、(服従しない)最も有能なドイツ人を多く追放したが、このことは早晩、彼らの軍事技術上にも不運な影響を及ぼさざるえないだろう。技術は科学を持たずにそういつまでも進歩していくわけにはいかず、科学も思想の自由のないところには栄えない
権力の源として用いられる信条は、一時は非常な力を与えてくれるが、しかし、このような力が特にたいした成功をみなかった場合には(熱中状態はそれほど長生きできないので)、(幻滅や)倦怠を生み、倦怠は懐疑を生む。・・・。信条の力に対する究極の限界となるものは、退屈であり,倦怠であり、安逸をこい願う気持ちである。
第11章 組織体の生物学
We come now to a new department of our subject: the study of the organisations through which power ir exercised, ...
順序としては、まず、組織体をそれ自らの生命を持つところの有機体として考え(第11章)次に組織体を、その組織体の種々の統治形態(Foms of goverment)との関係で考え(第12章)、最後に、組織体を、組織体を構成する人々の生活に影響を及ぼすものとして考える(第13章)
本章で論議する主題、即ち組織体の生物学は、次のような事実を基礎として成り立つ。
組織体は有機体でもあり、それ自らの生命を持ち、成長したり。衰滅したりする傾向をもつ。
組織体とは、共通の目的をめざ諸活動のために相互に結びついた集団をいう。・・・。およそ組織体というものは、その性格がどんなものであろうとも、また、その意図がどんなものであろうとも、そこには権力の何らかの再配分を伴わぬものはない。・・・。
政府の成員は、かりに彼らが民主的に選出されたものであるにしても、他の人々に比べればより大きな権力を持つことになり、この点は、民主的に選ばれた政府の任命する官吏についても同様である。組織が大きくなればなるほど行政官の権力はそれだけ大きくなる。そうして、組織体が大きくなるにつれて権力の不平等は増していくと同時に普通の成員(0rdinary mebers)の自主性が減少して政府のイニシアティブの範囲が広がっていくのである。
組織体は、次の2つの重要な点における違いによって異なってくる。つまり・・・
1.組織の規模
2.権力の密度・・・即ち、組織のメンバーに行使するコントロールの程度(多少)。
あらゆる組織体は、そこに反対に作用する力が欠けている場合には、規模においても権力の密度においても、次第に増大していく傾向がある。(顕著な例:国家→帝国主義)
*汽船・鉄道: 最後には飛行機がでてきて、諸国の政府は、遠隔の地に対しても迅速に権力をふるうことが出きるようになった。・・・。この結果、国家間の競走に激しさを加えることとなり、勝利を今までよりも断固たるものにすることとなった。
人間は権力を愛するものだから、また、平均してみて権力を握る人々はおおかたの人々以上に権力を愛する人々であるから、国家を支配する人々も、正常な状態では、国家の版図の増大を望むのと同じように、国家の国内活動の活発化を望むものと考えていいだろう。・・・。
国家以外の組織体も、・・・大体において、我々がこれまで考察してきたと同種の法則に支配されている。・・・。我々の目的からいって、最も重要なものは、政党、教会及び事業法人である。・・・。
ナショナリズムは、多くの国々における教会の権力を著しく減少させ、以前は宗教にはけ口を見い出していた種々の感情を国家の手に移させた。・・・。
異なってはいても両立せぬことのない目的をもった二つの組織体が合体して二つになった場合、その結果は、以前のどちらか一つよりも、また、両方を(単純に)加えてみた場合よりも、ずっと強力な何ものかになる。・・・。だからこそ、合併の傾向は自然におこるのであり、このことは、経済分野にだけあてはまるわけではない。このような過程の論理的な結末は、最も強力な組織体、通例は国家が、他の組織体の全てを吸収することになる。これと同一の傾向は、相異なる国家の目的意図が両立しえないものでないかぎり、やがては一つの世界国家をも生むにいたるだろう。