ラッセル協会会報_第10号 |
「アメリカの日本に対する作用は,実は,日本そのものに対する米国の政策から来るばかりではなく,米国の対中国,対台湾その他(対ソ連など-筆者注)の世界政策が,むしろそのまま,日本に響いてくる。笠君は,ジョージ・ケナン氏の米ソ共同で日本の安全を保障する構想を歓迎すべきことだといいつつ,「それがすぐに出来ない場合は,それを将来に予想しながら,米国と日本との間だけに新しい関係を打立てることが好ましいと思う」と主張し,左に続けて書いている。
それはともかく,日本のもつむつかしい国際関係は,ほとんどがアメリカとの関連の中にも立っているといえるほどである。そしてそれがすこぶる複雑だというのは,現在の日本の状況が,アメリカに負うところすこぶる大きいと同時に,またアメリカの責任に帰さるべき部分も甚だ大きいからである。
しかし過去を問うても致し方はあるまい。いずれにしても,日本はいまの状況から脱出してその姿勢を正すことであるが,そのためには,やはりアメリカとの最もよい関係のなかで,はじめてこれを達成することができるように思われる。」(一四一頁)。
「それには,何よりも安保条約の再改定を取り上げることである。私はいまの時代の新しい同盟は,前に述べたように,軍事関係を挿入することが却って安全の保障にならない場合が多くなってきたと考える。もし,そうでなかったら,現在のように多数の『非同盟』をもって主義とする国が出現する理由が説明しにくいであろう。私は日本とアメリカが,経済と文化を中心とする精神的な結びつきを主として,米軍は日本本土に一兵もとどめないが,ただその安全保障については好意的立場をとるにとどまる,といった方式をとることを提案したい。
私は,これが日米間を史上かつてない形の国際関係を作り,それはやがて新しく生れる国際関係の先例を作ることになろうと思う。……もしこうした問題に対するアメリカの賢明な洞察が示されるなら,いまの日本の気持は一人のこらず一変するにちがいないと思う。」(一四三頁)
「それにしても,ただ反米というような気分で,遠方からおよび腰でただ反抗しているようなことでは,日本の問題が解決するわけはないので,やはり,アメリカとは真正面から四つに取り組まねば,必要なことは解決しないように感ぜられるのである。それならば,出来る限りいろいろの偏見を去って,言葉は古臭いげれども堂々と対決していくという方向にむかうほかはあるまい」(一七〇頁)。