ラッセルの本で感ずることは、比喩や引例のうまさ、分析の的確さである。『幸福論』の中で、嫉妬心とは、「自分の持っているものから、楽しみを取り出すかわりに、他人の持っているものから、苦しみをとり出すもの」で、「他人の幸福を羨む心ではなくて、他人を引きおろしたい気持」だと言っている。
また、1954年の 'Human Society in Ethics and Politics' の中で、「世間では私を合理主義者とみなすが、人間生活は不合理なものに支配されていて、それを示すのが本書の意図だ」として、モンテ・クリスト伯の話をする。同書の「人間とは何か」の中で、人間を孤立的な面と社会生活的な面を共有する、semi-solitary; semi-social な存在としている。
一辺倒にならず、柔軟な物の観方をすることの必要を、私は教えられた。分析の達人であるラッセルは、その分析力のすばらしさを通して人生を吾々に見せてくれている。例えば、「退屈」を'人生の病気'とみなし、'反対を考える力'を説いている。 愛情の反対は何か? 「にくしみだ」と答えるかも知れない。しかし、にくしみは愛情の一部である。愛情の反対は無関心である、と彼は説明する。では、退屈の反対は何か? それは、快楽を求めることではなく、スリル(thrill)のあることである。そして、彼は、退屈を逃れるのにはどうすればよいか、の質問に、「退屈に耐える能力を養うことで(であり)、活力(vitality)の衰えは退屈を招く。この能力は教育によって養成される。」と答えている。想像力を働かせて行くのも一つであるが、退屈は必要で、退屈によりすばらしいものを発見することもできる、と言う。
実践的な知慧を私はラッセルから学んだ。
之をまとめてみる。
イ) 宇宙を考えること
自分をつき離して、冷静に考えること、極端に言えば、女房の浮気にも、宇宙の星の運行を考えていることができれば、救われるのではないだろうか。「他人は、自分が自分のことを考える程、熱心に考えてはくれない」ぞと警告している。
ロ) 自分の精神を訓練すること
an orderly mind と呼び、失恋や悲しみ、苦しみを、計画的に、集中的に悩み考えよ、と説く。だらだらと悩むのをやめて、'歎きの日'を設けるとよい。'当然考えるべき時に考える習慣'を作り、日常生活を理性的に支配するやり方を教える。