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日高一輝「バートランド・ラッセル卿の近況-ロンドンにて」

* 出典:『日本バートランド・ラッセル協会会報』第12号(1969年4月)p.8.
* 1969年始め頃のラッセル(97才:死亡する約1年前)の近況<


ラッセル協会会報_第12号
 97回目の誕生日を(今年)5月に迎えようとするバートランド・ラッセルは,ますます快調にその長寿を保っておられる。
 昨年あたりまで時おり胃痛をうったえておられたのも,今はすっかりなくなった。たまにおとずれてくれるドクターもラッセル卿の健康状態は全然心配無い,すこしも異状が見られないと語っておられた。そして,ともかく不思議な身体で,百才以上の長命も十分に考えられるというのである。本人もそれを信じておられる。
 食事は,栄養と消化を考慮して特別に調理されたものをとっている。時間は,朝食午前9時,昼食午後1時,夕食午後7時と決まっている。夜は読書を楽しみ,ベッドに就かれてからもしばらく読んでおられる。それで就寝は,その時に応じて,午後11時,12時,ときには午前1時になることもある。
 今は北ウェールズにお住まいで,めったに旅行されない。自叙伝第3巻を書きつづけておられる
 あとは通信やステートメントであるが,最近はソ連のチェコ侵略に抗議することに熱意をそそがれている。これ以上,東欧諸国に向って侵略させないためにというので,来年4月頃,「ソ連のチェコ侵略に抗議する世界大会」を開催する計画を進めておられる。5月に予定されている世界共産党大会の前にというお考えである。
 場所はスエーデンのストックホルムである。次は,ソ連のチェコ侵略に抗議してラッセル卿が発せられたステートメントである。

○ロシアのチェコ侵略は,クレムリンの弱点を曝露し,東欧諸国の基本的自由の欲求をいかに恐れているかを実証している。ソ連は,自らの恥をさらし,自分が世界に訴えている原理そのものをはずかしめたものである。わたくしは,このような圧迫に同意しないあらゆる社会主義者と共産主義者に訴える- 個人的に,また集団的に,いたるところのソ連大使館に対して出来るだけ激しく抗議し,かつデモを実践すベきであると。(1968年8月21日)

○革新陣営は,チェコスロバキアが強迫されて会談に臨むのを承認するわけにはいかない。何十万という軍隊を動員して,人質をとったり,占領したりすることは,全く承知できない。ソ連の占領は即刻終止しなければならない。チェコの指導原理と国民全般の考え方は,チェコスロバキアにおける資本主義の復興の脅威などということは,全くの伝説にすぎないことをはっきりと示している。基本的自由は,社会主義にたいする脅威ではなくて,もっとも根本的な要素である。ソ連のチェコ占領は,西側諸国における,そしてまた全世界における反動勢力を強化させるものである。(1968年8月25日)


ラッセル卿が提唱した対ソ抗議ストックホルム会議の日程および議事内容

* 議題は,ラッセル卿本人の選定による

(1969年)
I  期日 2月1日(土),2日(日) 小会議 /場所 ストックホルム,ABFビル,サンドラー・ホール
II 期日 5月第1週 会議 /場所 ロンドン


★2月1日(土)
 午前10時~午後1時
・バートランド・ラッセルのメッセージ
・議事日程の承認
・議題 チェコは果して Anti-Socialism か?(1968年1月より1969年1月にいたる間に,ソ連がチェコの「反革命」または「反社会主義」と呼んだところのものは,真実は何であったか)
 1)社会主義に対するチェコのいわゆる「改革」の要求というのは,どういうことであったか
 2)チェコの要求にどの様な社会的勢力が参加するにいたったか-またどの様な方法で参加したか
 3)チェコ侵略にたいするソ連の口実をどの様にうけとるべきか
 4)チェコのいわゆる「改革者」たちの実際の計画や運動にたいして,ソ連がとった行動の実際の動機は何であったか
 5)この様なソ連の動機の真の根源はどこにあったか

 午後2時30分~午後6時
  ・議題 占領下の社会主義は可能か(ソ連の行動は,実際にはいかなる結果をもたらしたか)
 1)ソ連の侵略以来,チェコにおける社会主義はどうなったか
 2)スターリソ主義と反ユダヤ主義
 3)ソ連の勢力範囲に関する協定とそれの意味するもの
 4)ソ連の行動は,社会主義の国際的運動の将来にいかなる影響を及ぼすか

★2月2日(日)
 午前10時~午後1時
・議題 今後の見通し
 1)ドゥブチェック指導下の現状。それから,1~8月占領計画にもとづく占領下の実態
 2)政治がどの方向に進んでいくか
 3)抑圧の危険-たとえば追放,逮捕,裁判等
 4)抵抗の性格はどの様なものであり,またどの程度まで伸ぴるか

 午後2時30分~午後4時
・議題 宣言。(報道関係者には公開しない。結論として,以上の議事内容の調査審理の続行と,5月ロンドン会談の宣言)

 午後4時30分~
  プレス・コンファレンス(記者会見)(了)