![]() ラッセルの言葉366 |
このあとが大変だった。これを書くまでにわたしの見ることができた『ザ・タイムズ』紙の十一月二十日号まで、二週間余にわたってほとんど連日、同紙の投書欄には、この問題をめぐる激しい論争がまき起り、それには普通の市民から知名の人々までが参加してきたのだ。そのような反応の内容を若干紹介する前に、この事件にはやや注釈が要るようだ。「拝啓、ゴランツ社は最近アーネスト・ゲルナー(1925~1995)の著書『コトバと事物』(Words and Things)を出版しました。わたしはその本を出版前に読み、それが「ある種の」哲学学派を綿密に正確に分析したものとみなし、その見解を同書の序文に表明いたしました。今わたしの知ったところでは、『マインド』誌の編集長ライル教授はゴランツ社に手紙を書き、次のような理由でこの本の書評を『マインド』誌にのせることを拒否する、といってこられたのです。つまり同書が悪罵的であり、その故にアカデミックな主題への貢献として扱いかねる、という理由です。
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編集長の義務がこのように党派的に考えられていることは、ひどくショッキングなことです。哲学書の価値というものは、常に人によって意見が違う事柄ですから、ライル教授がこの本の評価についてわたしと意見を異にされても、わたしは驚きはしません。
しかし『マインド』誌はこれまで、その創刊いらい終始、真剣で有能な哲学書のすべてについて討議するための、一つの論壇を呈供してきたのです。ゲルナー氏の本は、そこに検討されている諸見解に著者が同意していない、という意味を除いては『悪罵的』ではありません。ライル教授の諸見解を裏づけないような本が、もしすべて『マインド』の誌面からボイコットされるべきだとすれば、これまで尊敬されてきたその学界誌は、ある排他的派閥の仲間ボメのための機関誌に成り下るでありましょう。イギリス哲学の世評を気づかうすべての人々は、このことを遺憾とするでありましょう。敬具」