ラッセル著書解題 |
'知覚作用と知覚の対象をはっきり区別して、知覚作用はその対象を志向するという説は、中世のスコラ哲学に始まり、ブレンターノ(1838~1917)を経て現象学に伝わっている。そしてラッセルも本書の第1版執筆当時(1914年)にはこういったブレンターノ説の信奉者であったが、その後、ジェイムズなどアメリカの新実在論者の影響の下に知覚作用とその対象を同一視する中性一元論の立場に移行し、(1926年版の)本文に述べてあるように、その立場で執筆されたのが『心の分析』(1921年)である。しかしその後中性一元論は放棄され、『物質の分析』(1927年)、『意味と真偽性の探求』(1940)などでは、本書の第1版でとられたような立場に復帰している。
(中央公論社版・世界の名著第58巻『ラッセル、ウィトゲンシュタイン、ホワイトヘッド』p.159の石本新氏による脚注参照)