80歳に達し、自分の人生を総括してみる

私の仕事は終りに近づいており,それを全体として見渡すことができる時がきている。どの程度私は成功し,どの程度失敗したのか?

 は,若い時から,偉大かつ困難な仕事に自らを捧げた(捧げている)と自任していた。61年前(注:1895年始め/本エッセイは最初1952年に出され,1956年に単行本に収録された。即ち,初出の1952年から見れば57年前が正解),冷たく光り輝く3月の太陽のもとで溶け始めた雪の中(雪を踏みながら),ティーアガルテン(注:Tiergarten :ベルリンにあった総面積210ヘクタールの大公園/右写真)の中を一人で歩きながら,私は二系列の本を書こうと決意した。(即ち)一方は,抽象的な本(著作)で次第に具体的になってゆくもの(の一連の著作),他方は,具体的な本(著作)で次第に抽象的になってゆくもの(の一連の著作)であった。それらは純粋な理論を実際的な社会哲学と結びつけた一つの総合によって有終の美を飾るはずであった。いまだ実現できていない総合を除いて,私はこれらの本を書いてきた。
それらの著作は喝采かつ称賛されてきた。また,多くの男女の思考はそれらの著作の影響を受けてきた。この範囲において私は成功してきた。
しかし,これに対して,二種類の失敗,即ち,外的な失敗と内的な失敗が課されなければならなかった

My work is near its end, and the time has come when I can survey it as a whole. How far have I succeeded, and how far have I failed? From an early age I thought of myself as dedicated to great and arduous tasks. Sixty-one years ago, walking alone in the Tiergarten through melting snow under the coldly glittering March sun, I determined to write two series of books: one abstract, growing gradually more concrete; the other concrete, growing gradually more abstract. They were to be crowned by a synthesis, combining pure theory with a practical social philosophy. Except for the final synthesis, which still eludes me, I have written these books. They have been acclaimed and praised, and the thoughts of many men and women have been affected by them. To this extent I have succeeded.
But as against this must be set two kinds of failure, one outward, one inward.
出典: Reflections on My Eightieth Birthday (1952)
詳細情報:http://russell-j.com/beginner/0987_RoMEB-050.HTM

<寸言>
常に前を見てきたラッセルも80歳になり、自分の過去を総括する気になったようである。ラッセルは97歳8ケ月も生き、80歳以後も平和運動を中心に精力的に活動したが、80歳の時点でそれほど長生きするとは予想していなかっただろう。その意味で80歳というのは、過去を省みるちょうどよい時期であったと思われる。

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