権力欲は権力を行使することによって大いに増進する

 権力欲は権力を行使することによって大いに増進します。また,このことは有力者の権力に当てはまるだけでなく,ささいなとるにたらない権力(例:小役人の権力)にも同様にあてはまります。1914年以前の幸福な時代(注:世界大戦を経験してないことは幸福)には,裕福な婦人たちは多数の召使たち(使用人)を得る(雇う)ことができ,召使たちに対し権力をふるう婦人たちの快楽は年齢を重ねるにつれて着実に増大しました。同様に,独裁政体においては,権力の保持者は,権力(の行使)が与える快楽を経験することによって,ますます専制的になっていきます。
人々に対する権力は,自分で進んでやらないことを人にやらせることにで示されますので,権力欲によって動かされる人は,相手に快楽(の機会)を許すよりも,苦痛を加えがちになります。ある正当な理由で(on some legitimate occasion),休暇を上司に願い出たら,その上司の権力欲は,(部下に)同意することよりも拒否することによって,より快楽を引き出すでしょう。建設許可を必要とするとき,担当の小役人は「イエス」というより「ノー」と答えることからより快発を得ることは明らかでしょう。権力欲を危険な動機にするのは,こういった種類のものです。

Love of power is greatly increased by the experience of power, and this applies to petty power as well as to that of potentates. In the happy days before 1914, when well-to-do ladies could acquire a host of servants, their pleasure in exercising power over the domestics steadily increased with age. Similarly, in any autocratic regime, the holders of power become increasingly tyrannical with experience of the delights that power can afford. Since power over human beings is shown in making them do what they would rather not do, the man who is actuated by love of power is more apt to inflict pain than to permit pleasure. If you ask your boss for leave of absence from the office on some legitimate occasion, his love of power will derive more satisfaction from a refusal than from a consent. If you require a building permit, the petty official concerned will obviously get more pleasure from saying “No” than from saying “Yes”. It is this sort of thing which makes the love of power such a dangerous motive.
出典:Bertrand Russell: What Desires Are Politically Important? 1950
詳細情報:http://russell-j.com/beginner/0944WDPI-080.HTM

<寸言>
民主主義国家においても,国民が日々権力をチェックしないと,権力者はしだいに不当な権力の行使をするようになり,また,批判を封じるために,情報をコントロールし,「由らしむべし知らしむべからず」が政治を行う上での基本的な態度となっていく。
民主主義が機能しているかどうかは,その国のジャーナリズムが日頃権力批判を行い、常に権力の暴走をチェックしているかどうかでわかる。
その意味で読売新聞などはジャーナリズではなく、政府広報あるいは御用ジャーナリズムということになる。