子供の時に,下品な冗談で性に接することの弊害

 子供が農園(注:通常家畜も飼育している。)で生活しているのでないかぎり,父親が生殖(生命の発生=誕生)において果たす役割は質問に対する答えの形で,自然な話題になる(注目される)ことはなさそうである。しかし,このことについては,子供がまず父母や教師から教えられることが非常に重要であり,悪い教育によってみだらになっている(他の)子供たちから教えられるということであってはならない。
私は自分が12歳の時,(同い年の)別のある少年から,性に関する全てについて話して聞かされたことを,(今でも)生き生きと覚えている。即ち,性にまつわる事柄全体が猥褻な冗談に使うための話の種として,下品な精神で語られていた(のである)。それは,私の世代の少年たちの普通の経験であった。
当然,大多数の人は,生涯を通じて,を滑稽かつ汚ならしいものと考え続け,その結果,彼らは自分が肉体関係を持つ女性を(注:安藤訳では intercourse を「交際する」と訳されているが,ここは性交=肉体関係を持つと訳すべきであろう。),たとえ自分たちの子供の母親(注:通常は妻)であっても,尊敬することができなかった。父親(の方)は,性に関する知識を最初どのようにして手に入れたか覚えているはずなのに,両親とも,(子どもによる性に関する知識の獲得を)運にまかせるという臆病なやり方に従った。このような方法が,なぜ健全な精神や健全な道徳に役立つなどと考えられたのか,私には想像もつかない。
性は,最初から,自然なものであり,楽しく,見苦しくないものとしてとり扱われるべきである。そうでないと,男女関係を,また,親と子供の関係を,毒することになる。最上の性は,互いに愛しあいかつ子供(たち)を愛する父親と母親の間に見いだされる。子供たちは,性に関する最初の印象を下品な冗談から受けるよりも,まず両親の関係から性について知るほぅがはるかによい。子供たちが,両親の間の性を,自分たちには隠されてきた罪深い秘密として発見することは,特によくないことである。

The share of the father in generation is less likely to come up naturally in answer to questions, unless the child lives on a farm. But it is very important that the child should know of this first from parents or teacher, not from children whom bad education has made nasty. I remember vividly being told all about it by another boy when I was twelve years old ; the whole thing was treated in a ribald spirit, as a topic for obscene jokes. That was the normal experience of boys in my generation. It followed naturally that the vast majority continued through life to think sex comic and nasty, with the result that they could not respect a woman with whom they had intercourse, even though she were the mother of their children. Parents pursued a cowardly policy of trusting to luck, although fathers must have remembered how they gained their first knowledge. How it can have been supposed that such a system helped sanity or sound morals, I cannot imagine. Sex must be treated from the first as natural, delightful, and decent. To do otherwis is to poison the relations of men and women , parents and children. Sex is at its best between a father and mother who love each other and their children. It is far better that children should first know of sex in the relations of their parents than that they should derive their first impressions from ribaldry. It is particularly bad that they should discover sex between their parents as a guilty secret which has been concealed from them.
出典: On Education, especially in early childhood, 1926, Pt. 2:Education of character, chap. 12: Sex Education
詳細情報:http://russell-j.com/beginner/OE12-070.HTM

<寸言>
普段、動物性の肉は、断片化されたものしかみたことがなく、ましてや、家畜が子供を生むところをみたこともない都会の子どもたち。ずっと昔のように産婆さんによって自宅で子供を生むようなことは皆無の先進国。そういった社会にあっては、どうしても、性教育はややもすると抽象的なものになってしまう危険がある。
北欧のような進んだ性教育は、高度な福祉社会の特徴の一つでもあろう。日本のように進んだ産業社会【国家)であっても、古い道徳観や倫理観が残っているところでは、どうしてもオブラートに包んでしまうところがある。たとえば、多くの与党の国会議員が加わっている日本会議の家族間や道徳観をみたら、まともな性教育なんかは不可能に見える。