「人間性」をあまり固定的に(絶対的なものとして)考えないほうがよい

<質問は,ウドロウ・ワイアットBBCテレビ解説者兼労働党下院議員)による。>
・・・前略・・・。

●問 しかし,戦争をするというのは,人間性の一部ではありませんか。
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◆ラッセル さあ,(あなたが「人間性」と言う時)人間性がどういうものであると想定されているのか,私には分りません。しかし,人間性は無限に順応性があります。人々が実感していないのはそのこと(事実)です。まあ,(たとえば)飼い犬と野性の狼とを比較すれば,躾によって何が可能か,お分かりになるでしょう。飼い犬は,魅力的で,気持のよい動物で,時々吠えたり,郵便足さんに噛みつくことがあるかも知れませんが,全体的に言って,申し分ありません。しかし一方,狼は全く別ものです。まあ,人間についても,全く同じことが言うことができます。人間も,どのように扱われるかに従って,全く今までとは別のものになるでしょう,人間性は変えられないという考えかたは全くばかげたものだと私は考えます。

●問 しかし,確かに,我々は,長期間に渡って,人々に戦争をしないように説く仕事に取りくんできましたけれども,それにもかかわらず,あまり成功したとは言えませんね。

◆ラッセル さあ,私たちは人々を説得しようとしてきませんでした(してきたとは言えません)。わずかな,ごくわずかな人々は,説得しようとしてきましたが,★大多数の人々は説得(の努力)をしようとはしてきていません。

Woodrow Wyatt: But isn’t it a part of human nature to have wars?

Bertrand Russell: Well, I don’t know what human nature is supposed to be. But your nature is infinitely malleable, and that is what people don’t realize. Now if you compare a domestic dog with a wild wolf you will see what training can do. The domestic dog is a nice comfortable creature, barks occasionally, and he may bite the postman, but on the whole he’s all right,. whereas the wolf is quite a different thing. Now you can do exactly the same thing with human beings. Human beings according to how they’re treated will turn out totally different and I think the idea that you can’t change human nature is so silly.

Woodrow Wyatt: But surely we’ve been a long time at the job of trying to persuade people not to have wars, and yet we haven’t got very far.

Bertrand Russell: Well, we haven’t tried to persuade them. A few, a very few, have tried to, but the great majority have not.

出典: Bertrand Russell Speaks His Mind, 1959.
詳細情報:http://russell-j.com/cool/56T-0601.HTM

[寸言]
残虐な行為の多さや、自己中心主義(最大なものは自国中心主義)の横行を見るにつけ、「人間性」そのものに問題があるように思えてしまう。それに対し、「人間性」は変わらないものではなく、「人間性」はよい方向に変えていくこともできると、「人間性に希望を持つことをあきらめない(絶望しない)」晩年のラッセル
しかし、「努力(競争=切磋琢磨)によって無限の可能性がある、一億層活躍社会の実現を」などといった、どこかの政治家のような脳天気なこと(あるいは、社会悪の隠蔽のための掛け声)」は言わない。