権力と虚栄心-権力は(必ず)腐敗する、なぜなら・・・

TPJBRSHM BBCのインタビュー番組(「ラッセルは語る」)から

質問は,ウッドロウ・ワイアット(BBCテレビ解説者兼労働党下院議員)による。>
・・・前略・・・。

問 立派な事をやりたい(善行をなしたい)と思っている人が,どちらかというと虚栄心から権力を欲しがることもまた,しばしば起こるのではないですか?

ラッセル はい,非常にしばしば起こります。それはみな,あれこれやりたいという願望(思い)よりも,(混ぜ物のない)全くの権力愛が勝るからです。アクトン卿(1834-1902,英国の歴史家)が「権力は腐敗する,なぜなら,権力をふるう喜びは権力を実際に経験する(実際に権力をふるう経験をする)につれて成長して大きくなってゆくものだからである」と言ったのはまったく正しいというのは,そういった理由です。たとえば,クロムウェルの例をとってみましょう。クロムウェルが政界に身を投じた時,まったく立派な動機を持っていたことは疑いありません,なぜなら,そこには英国にとってごく重要と彼が思う一定の事柄があり,それがなされるのを目にしたいと思ったからです。しかし,彼はある一定の期間,権力の座について以後,まぎれもなく権力そのものを欲しがりました。そして,それが,彼が,臨終に際して,自分は神の恩寵に背いたと思う,と言った理由です。いや,確かにそうですね。精力があふれている人は,権力を欲しがると思います。しかし,私の場合は,ただ一種類の権力が欲しいだけです。私は世論に影響を与える権力が欲しいと思います。

問 世論に対してあなたがこれまで持ってきた権力のために,自分が腐敗したとお考えになりますか。

ラッセル さあ,腐敗したかどうかは分りません。それは私が言うべきことではありません。その点については,私以外の他の方々が審判者でなければいけないと,思います。

Woodrow Wyatt: Doesn’t it very often happen that the person who wants the good things also wants power because he’s rather vain?

Bertrand Russell: Yes, it does very often happen, all because the sheer love of power outweighs the wish to get this or that done. That is why Lord Acton was quite right to say that power corrupts, because pleasure in the exercise of power is something that grows with experience of power. Take, for example, Cromwell. I have no doubt that Cromwell went into politics with entirely laudable motives because there were certain things he thought were extremely important to the country that he wanted to see done. But after he’d been in power for a certain length of time he just wanted power, and that is why on his deathbed he said that he was afraid he’d fallen from grace. Oh, certainly, yes. I think every person who shows much energy wants power. But I only want one sort of power. I want power over opinions..

Woodrow Wyatt: Do you think that the power you’ve had over opinions has corrupted you?

Bertrand Russell: Well, I don’t know if it has. It’s not for me to say that. I think other people will have to be the judge of that.
出典: Bertrand Russell Speaks His Mind, 1960.
詳細情報:http://russell-j.com/cool/56T-0601.HTM

[寸言]
多くの人が同意することを権力者(政治家ほか)が実現・実施できたとしても,権力者は満足感をそれほど得ることはできない。むしろ、多くの反対者の意向に反したことを強制することができることで、権力者は自分の権力の大きさを実感し、満足感を得ることができる。

反対する国民の数のほうが多くても安保法制を国会を通過させることができた安倍総理は、自らの権力の強大さに満足している(酔っている)ことであろう。自衛隊が容認されるようになったのと同じように、いずれ、国民にも安保法制は受け入れられていくだろうと思っているのであろう。その証拠に安倍内閣の支持率が現在少しずつあがりつつある,と意を強くしている。

マスコミへの介入(報道規制を通じての自己検閲への誘導)、(義務教育段階における)愛国心教育の強化等を通じての「美しい」日本の建設・・・・。アベノミクスがひどい結果に終わるか、原発がまた大きな事故を起こさない限り、国家権力による情報統制の恐ろしさを実感する国民は大幅に増えることはなさそうである。