三浦俊彦による書評

★ リチャード・E・ニスベット『木を見る西洋人 森を見る東洋人』(ダイヤモンド社)

* 出典:『読売新聞』2004年8月1日掲載


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 西洋文化は分析的、東洋文化は全体論的。西洋社会は個人主義的、東洋社会は協調的。こうした俗説が真実なのかどうかを、哲学史、諺、心理学実験など、さまざまな手掛りから検証した試み。『菊と刀』の科学版といえようか。
 結論は驚くべきものである。英米人と東アジア人の思考や知覚に俗説どおりの差異がハッキリ出たばかりか、ヨーロッパ大陸の人や英語圏在住の東洋人は中間傾向を示すなど、水も洩らさぬ体系的な実験結果が勢ぞろい。
 東西それぞれの弱点はとくに教訓的だ。西洋人は世界を単純化し、文脈から切り離して個物を見がちなため、ある場面での人の言動を一度見ただけでそれが当人の本質だとレッテルを貼ってしまいやすい(基本的帰属錯誤)。
 他方、「後知恵バイアス」に陥りがちなのが東洋人。予期しない出来事が起きたとき、西洋人は率直に「驚いた」と言うのに、東洋人は「そうだろうとも思っていた」と反応する。世界を複雑な総体だと考える東洋人は、明確な因果モデルを設定せず、何が起きても納得してしまうのだ。これでは科学が発達するはずがない。
 怒涛のごとき実証データ陳列の果てには、もちろんグローバル社会の行く末が展望される。異文化交流の結果はどうなるのか。全面西洋化? 多極化? それとも融合の道?  比較文化~文明論と流れるこの本筋と並ぶ、いやもしかしたら本書最大の妙味は、むしろ細部、巧みな実験手法の数々だろう。中国語と英語のバイリンガルに二言語で質問するなど、対照実験の凝った手続きがさりげなく学べてお得な感じだ。イラストつき心理テストの数々も、人に試したくなるものばかり。ちなみに第6章の次のクイズを大学の授業でやってみたら、大多数の学生が「東洋人的な」答えを出しました。やっぱり本書は正しかったんだな。
 問:次の三つのうち、仲間はずれはどれですか。{パンダ、サル、バナナ}。村本由紀子訳。

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